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第四十九章「スノとスゼ」【1】

今日の裁判の様子をサッテリが伝えると、チゴネスは憮然とした表情になりま
した。

何もできなかった自分に納得がいかないのです。

この知らせは当然ウィレオにももたらされました。

彼女自身も責任を感じ、ひどく落ち込んでいました。

ユスデノを心変わりさせるどころか、ネラまでも傷付ける結果を招いてしまっ
たからです。

親友の姉であるマレアにも顔向けができません。

こんなふがいない自分を見たら、シノンは何と言うだろう、それが心配でした。




いつの間にか、ラスゼンは自分の家の前に立っていました。

中へ入るでもなく、ただ玄関の前に立ち尽くしていたのです。

道行く人も、特殊遊撃隊副隊長の姿に首をかしげています。

夫婦喧嘩でもしたのかと。

たまたま買い物から帰ってきたコフィナが彼を見つけ、慌てて駆け寄りました。

二回ほど彼女に名を呼ばれ、ラスゼンはようやく我に帰りました。

顔色が真っ白のラスゼンを家の中へ押し込み、コフィナは扉に鍵をかけました。

とんでもない事態が起きたのだと、彼女は直感していたのです。

ラスゼンはテーブルを前にして立ち尽くすままでした。

「判決が出たのね?」


コフィナの問いに、ラスゼンは唇を震わせました。

小さな声が途切れ途切れに彼の口から出てくるのですが、ほとんど聞き取れま
せん。

大きな声が彼の代名詞でもあるのに。

覚悟はできていたはず、なのにどうしてここまで打ちひしがれるのか、コフィ
ナは違和感を覚えました。

「どうしたの、何があったの?」


彼女はラスゼンの口元に耳を寄せました。

「ユスデノは…殺すのだ…自分の父親を…」

「!」

「罪など無い。

父さんは罪など犯していない。

金の為に俺たちや母さんを捨てたと、それが事実だったとしても、
母さんが殺されたのは父さんのせいではない。

逆恨みの挙句、裁きを人の手に委ねるなど、断じてあってはならん。

自分の手を汚さず、人に殺させても、結果は同じ。

ユスデノは人殺しだ。」


コフィナはラスゼンを落ち着かせるため椅子に座らせ、温めた牛乳を飲ませま
した。

それでも、しばらくは彼の震えが止まる事はありませんでした。

心底凍えているようです。

それからしばらくして、ラスゼンはようやく詳細を語り始めました。

スロンゼルの斬首が決まった事、その裁判にはユスデノも証人として出席して
いた事。

ラスゼンは断言しました。

全てはユスデノが仕組んだのだ、と。

コフィナは淡々と夫の話を聞いています。

最初の取り調べでスロンゼルが父親だと悟ったユスデノは調書に嘘を書き連
ね、一人の悪党を作り上げました。

彼は“猛き烈火”を討伐したという自分の功績を武器に政府へ働き掛け、盗賊
に厳しい罰を与える裁判官カシリューをリグ・トーとまで呼びよせる事にも成
功しました。

「まさか、そこまで?」

「俺には分かる、ユスデノの事なら何でも…」


一緒に捕えた盗賊二人をすぐに釈放させたのも、スロンゼル一人が諸悪の根源
だと印象づかせるためです。

もちろん、これらはラスゼンの推測も混じっていますが。

結果、判決は禁固十年などという生易しいものではなく、刑罰としては最高
の、死刑となったのです。

さらにコフィナは、ラスゼンの決意を知りました。

チゴネスにある事を頼むつもりなのです。

「父の処刑をこの街で行ってもらうよう裁判所に進言してほしい、
そう話してみるつもりだ。」

「ラスゼン…どうして?」

「テーテでそのような事をするなら、この街の警備を担当する
我が隊も当然参加せねばならん。

隊長ならば、処刑台に最も近い場所にいなければならん。

必ず処刑の光景を目にする事となる。

父親の首が落とされる所を。

せめてそれだけでも、ユスデノの脳裏に焼き付けなくちゃならんと
思ってる。

コフィナ、俺は間違っているか?」

「いいえ。」


コフィナは首を横に振りました。

「あなたは間違っていないわ。

だって、あなたもユスデノ様と同じようにそこにいて、
同じ光景を目にするつもりなのよね。

お兄さんと同じ責め苦を背負うつもりなのよね、
これからのために。

誰が何と言ったって、私はあなたの決断を信じるわ。

大丈夫、私も処刑場へ行って、あなたの傍にいるから。」




ラスゼンは両手で顔を覆いました。

「コフィナ、俺は父親が死ぬ事より、ユスデノの方が心配だ。

そんなの、どうかしてるよな?

でも、いきなり現れた父親ってのにも実感がわかないんだ。

それよりも、ユスデノはこれで本当に満足なのかどうか、
そればかりが頭の中をぐるぐる回ってる。

どうすればいいか分からないから、チゴネス様の所に
真っすぐ行けなかったんだ。」


夫の迷いがコフィナにも伝わります。

「ねえ、お父様は本当に大悪党だと思ってる?

私はね、こう思うの。

罪滅ぼしの為に、そんな事を言ったんじゃないかって。」

「もしそうなら、父さんは馬鹿だぜ。

首を斬られるために嘘をついたようなもんだからな。

今頃、後悔してるんじゃないか。」

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