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第四十八章「底なしの呪縛」【15】

「決まってるだろ、馬鹿野郎。スロンゼルを助け出すんだよ。」

「そんなの無理だってば!
当日までは兵士だってたくさん出てくるはずだよ、出来っこない!」

盗賊の処刑となれば、セッツァのように助けようとする者が現れるのも珍しい
事ではありません。

処刑台の警護は前日から行われ、当日になれば野次馬の整理など、兵士は大勢
必要になるのです。

「元はといえば、全て俺の責任だ。

俺が馬鹿な真似をしなけりゃ、こんな事にはならなかったんだ。」

「ねえ、ロリョートさんからも言っておくれよ、やめろって!」


しばらくの間、目を閉じて腕組みをしたままのロリョートが、次のように言い
ました。

「ヤッヴ、剣は俺の分も用意するんだ。」

「えっ!?

なんだよ、ロリョートさんまでそんな無茶する気なの?!」


ヤッヴは呆れて天井へ顔を向けました。ただ、これにはセッツァも反対の意向
です。

「ロリョート、これは俺の不始末だ。

あんたにまでやらせる訳にはいかねえぜ。」

「甘ったれんな、誰がてめえの尻拭いをするといった?

俺は単にスロンゼルを助けたい、それだけだよ。

目的はたまたま一緒かもしれねえが、動機は全然違うぜ。」

「ロリョート…」

「あのさ、動機とかどうでもいいんだよ、お二人さん。

やる事が馬鹿げてるって言ってるんだよ。」

やや見下したようにヤッヴが吐き捨てました。

「うるせえ、ぐだぐだしゃべってねえで、さっさと剣を
買ってこい。」

「それじゃあ、俺も手伝うよ。」


そう言ったレシモスの眼はきらきらと輝いていました。

「俺は最初から、どうせ何もできないと諦めていたけど、
間違いだって分かったよ。

何もやろうとしないから、何もできないんだよね?

やろうとしなくちゃ、成功なんてあり得ないんだ!」

「レシモス…てめえも成長したなぁ。」


ロリョートは感慨深げです。

「また、おかしな奴が一人増えたよ。」

「ヤッヴ、ここではお前が少数派だ。

おかしなのは、お前だぞ?」

意気上がるレシモスに対し、セッツァはこう言いました。

「その通りだぜ、レシモス。

うじうじしてたって何も始まらねえ。

欲しい物があったら、てめえで動いて奪わなけりゃならねえ。

お前には重要な役割を任せる、スロンゼルの逃走を助けるんだ。

俺たちがあいつを助け出したら、馬に乗せて西へ
一目散に走るんだ。

国境さえ越えちまえば、それ以上は追ってこないはずだからな。」




「ロリョートさんたちはどうするのさ?

まさか逃げないつもりじゃないよね?」

「馬鹿言え、俺たちだって命は惜しいから、逃げるに
決まってんだろ。

だけどスロンゼルが逃げ切れるまでは、敵兵を食い止めておく
必要がある。

それが俺とセッツァの役目だ。」

「分かったよ、ロリョートさん。

スロンゼルさんの事は任せてくれよ。

地の果てまででも逃げてみせるよ。

なあヤッヴ、お前も一緒にやってくれるよな?」

「本当にのん気な奴だよな、お前って。」

「えっ、何か言った?」


ヤッヴは首を横に振りました。

「けど、説得が無理なら、やるしかないよな。

三人より四人でやった方が、成功する確率は上がるかも
しれないからね。」

「“確率”って、なんだよ?」

「独り言だよ。

けど、ロリョートさん、セッツァさん、これだけは言っておくよ。

絶対に無茶だけはしない事、約束だからね?」


セッツァが、くっ、と笑いました。

「へっ、随分と生意気になったもんだな。」

「これ以上マスグさんやマレアに悪い報告をしたくないからさ。」

「スロンゼルさんの救出が上手くいけば、
全部いい報告になるじゃないか。」

分かっているのかいないのか、レシモスはとにかくはしゃいでいます。

「また旦那に大目玉を喰らっちまうな。」

「違えねえ。」


ロリョートとセッツァは宿の馬小屋で痛めつけられた事を思い出し、自分の足
を叩いて大笑いをしています。

まるで最近のわだかまりが全て無くなってしまったかのように。

彼らの笑いが治まるのを待ってから、レシモスが尋ねました。

「それで、いつ決行するんだい?

今夜か、それとも明日?」


答えるのはロリョートです。

「いいや、今夜でも明日でもねえ、明後日だ。」

「その日は処刑日だよ?」

「だから、いいんじゃねえか。

斬首でも首縛りでも、死刑は街中で行うってのが常ってもんだ。

周りは野次馬に囲まれる。

俺たちも潜みやすい。

わざわざ警備の厳重な裁判所へ攻め込む必要なんてねえのさ。」


大勢で徒党を組んでというならともかく、この人数で力押しは無理なのです。

「すごいや、一瞬でそこまで考えちゃうなんて!

これで成功したも同然だね!」

「当り前じゃねえか。

これでも俺は、あの“手負いの熊”の頭領だぜ?」


全てが上手くいくと信じて疑わないレシモスを尻目に、ヤッヴはどこまでも
浮かない表情でした。

彼には分かっていたのです。

ロリョートとセッツァが、この計画に死を覚悟で臨もうとしている事を。

スロンゼルを助けたいというのは本心だし、それは何としても成功させるつ
もりでしょう。

しかし、そのためには何らかの犠牲を払わなくてはならないと思われました。

二人はスロンゼルと追っ手の間に立ちふさがる壁となり、命を投げ出すつも
りでいる、そうヤッヴは予感しているのです。

セッツァは、そんな彼の頭をやや乱暴に撫でてやるのでした。

 ― 第四十八章 完 ―

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