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第四十八章「底なしの呪縛」【13】

「おい、余計な話をするな。

裁判長、本題へ戻ってください。

時間の無駄ではありませんか。」

止めたのはユスデノです。

スロンゼルの告白を、ここへ来てなぜ止めるのか、レグリドムは疑問に思いま
した。

スロンゼルが泣き出した理由を、ユスデノは悟ったはずです。

目の前の青年が息子である事を、彼は知ってしまったのです。

知らないままでいてくれた方が、ユスデノには都合が良かったでしょう。

少なくとも、判決が下されるその瞬間までは。

ラスゼンが真実をスロンゼルに明かさないだろうという確信を持っていたので
しょう。

ユスデノの仕打ちを知った父親が苦しむだろうから、伝えるはずがないと。

私怨である事をカシリューに知られるのは、判決に大きな影響を与える、ユス
デノはそれを避けたいと考えているに違いない、とも。

しかしその思惑とは裏腹な方向へ進んでいました。

「いいや、非常に興味深い。

スロンゼルよ、言いたい事があるなら続けよ。」

演技とは思えぬ泣き方と過去の話、未来の大盗賊にはおよそ似つかわしくあり
ません。

カシリューは本心から興味を持ったのです。

「大戦の混乱の中、子供二人だけで生きていくのは至難の業です。

恐らくは、二人とも死んでしまったでしょう。

少なくとも、スロンゼルの息子は死んだのです。

もしも、万が一どこかで生き長らえているとしても、
私の息子ではありません。

生まれ変わり、別の人生を歩んでいるはずです。

妻や子供たちは、この世界のどこにも存在しません。」

「それを今の今まで耐え忍んできたのに、
不意に決壊してしまったという訳だな。」

「人は、この世のほとんどの人は、真面目に慎ましく生きている。」

「まこと、その通りよ。」

「それなのに、戦争が起きた。

一部の人間が自分勝手に始めた事。」

「…む?」

「罪のない人間が巻き込まれ、
戦争を始めた連中は高みの見物。」

「何を言っておるか、スロンゼル?」

「人が小さな幸せを守りたいと思っても、馬鹿者共が壊してしまう。

まるで意味が無い。」

「本件に関係ない事は言わなくてよろしい。

聞いておるか、被告人?!」

「だったら、そんな世の中、こっちから壊してしまおう、
そう思った訳ですよ。」

「…むむ?」


法廷が凍りつきました。

スロンゼルの声が変わっていました。

穏やかだったものが、低く暗くなったのです。




「現在、人々に恐れられていた大盗賊団は、
皆敗れていったと聞きます。

私が殺したチーレイも、その頭領が一人。

この国の盗賊は、ばらばらになっています。

権利と自由を奪われ、消滅しかかっているのです。

まとめあげる者が誰一人いない。

では、誰が彼らを束ねれば良いのか?

それは私しかいないでしょう。」

傍聴席からざわめきが起きています。

いよいよ悪党が本性を現したのだと。

あの涙の後で人が変わってしまった、皆がそう思いました。

その時ユスデノは目を見開き、床のどこか一点を見つめ、微動だにしませんで
した。

それはほんの一時でしたが、サッテリは見逃しませんでした。

「権利だの自由だの、そんなもの盗賊には
元々認められてなどおらん。

消滅、大いに結構。

この世に必要のないもの、それが盗賊だ。

しかし被告人よ、これでお前の本音が聞けたわけだな。」


くっ、くっ、くっ、とスロンゼルは愉快げに肩を揺らしています。

「私は金に目が無くてね。

それが私の根っこでしてね。

ただ、いかにも卑しいと思ったので、それは胸の奥に閉じ込め、
まっとうな人間として生きてこようとしていたのですよ。

しかし、ちまちま働いて得られる金など、たかが知れています。

そうなると、自分の稼げる以上の金を鼻先にぶら下げられたら、
理性も何も吹っ飛んでしまって。

家族の事なんかも、どうでもよくなってしまいましたよ。」


そう言って自慢げに笑いました。

ありもしない破滅への道を自ら作り、スロンゼルはその上を歩み始めていま
した。

冷静な者が見れば、それが演技かどうかなど、すぐに判別できるのです。

でも、裁判室にいた者の中では、それはごく一部に限られました。

相対しているカシリューでさえも、スロンゼルの変貌ぶりに飲み込まれてい
るのです。

「悔やんでも後の祭りだったというのだな。

こうなったのは戦争の責任だと逆恨みし、
それを起こした人々を許さぬようだ。

お前はこれから国中の盗賊を率い、世の中を壊し、
莫大な財産を手に入れようと目論んでいる。

だが所詮は絵空事、お前は捕まってしまったのだぞ?

これが現実であり、結末だ。」


するとスロンゼルは、床に唾を吐きました。法廷を侮辱する行為に、カシ
リューは眉をひそめます。

「本当にねぇ、連れの者がへまをやらかしまして。

盗賊だ、なんて名乗ってしまうなんて。

実に馬鹿げてる。」


落胆した表情を見せたのも束の間、彼はまたすぐ不敵な笑みを浮かべました。

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