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第四十八章「底なしの呪縛」【9】

「被告は、かの盗賊団“猛き烈火”の頭領チーレイを
その手で仕留めた猛者である。」


再び傍聴席がどよめきました。

チーレイの姿を知る者はほとんどいません。

襲われれば皆殺しになってしまうからです。

少なくとも、そう信じられてきました。

ですから、人々の噂の中で生き、恐怖を与え続けてきた“猛き烈火”の頭領が
死んだだけでも驚きなのです。

しかも、そのチーレイを倒した人物が被告人席にいる、人々は大いに興味を駆
られました。

一体何者だろうかと。

カシリューを見に来ただけの野次馬的な者も数多くいましたが、今やその眼は
スロンゼルにも向けられていました。

彼の風貌に殺気など感じられないと思いつつも。

ならばいったいどうやって、チーレイの息の根を止めたのか。

この段階においては、スロンゼル自身にというよりは、やはりそちらの話を聞
きたいというのが本心でしょう。




彼らの期待の応えようとしたのか、カシリューは書類を片手に語り始めました。

ユスデノが作成した調書です。

「チーレイという女盗賊は、同性を嫌う性分であった。

特に、若い女性に対して異常なまでの憎しみを抱いていた。

手下を男ばかりにしていたのも、無関係ではない。

スロンゼルは、それを利用したのである。

まず彼は小さな村を襲い、名も知らぬ若い娘を拉致した。

元々は自らの慰み者としてさらったのだが、チーレイが近くに
いる事を知るや、娘を囮にしておびき寄せようと企んだのだ。

チーレイはまんまとスロンゼルの計略にはまり、
捕えられてしまった。

そして、見せしめであるかの如く、チーレイの首をはね、
野にさらしたのだ。

これが武勇伝と呼ぶにふさわしいであろうか?」

「なんと…」

「恐ろしい…」


傍聴席の役人らしき塊から、怯えたようなざわめきが聞こえました。

「そんな馬鹿な、違います。

確かに私はチーレイを殺した。

だが、村を襲ったり、見知らぬ娘をさらうなど、
まるででたらめです。

一体どこの誰が、そんな作り話を?!」


さすがにスロンゼルも黙ってはいられません。

のしかかってくるカシリューの圧力にもめげず、彼は反論しました。

「いきなり襲ってきたのはチーレイの方なんです。

私の仲間は抵抗し、何とか返り討ちにしました。

そんな中、ふとしたはずみで私はチーレイを気絶させた。

だから、捕まえる事が出来たんです。」


カシリューはしかめっ面のまま、鼻で笑いました。

「天下に名高い盗賊団の頭領が、ふとしたはずみごときで
捕まるはずもない。

それに、これは被告人が口にした話ではないか。

私は調書を読み上げただけだぞ?」

「そんなもの、誰かが捻じ曲げた嘘の調書です。

特殊遊撃隊のユスデノ隊長に聞いてください、
彼なら全てを知っているはずですから!」


激しい剣幕のスロンゼルを、カシリューはじっと見つめました。

傍聴席の人々は、固唾を飲んで見守っています。

サッテリも口の中がからからでした。

カシリューの読み上げた調書の内容がそのまま通ってしまったら、なるほどス
ロンゼルは非道な悪人という事になってしまいます。

そしてカシリューは次のように言いました。

「ふむ、よかろう。

少々早いが、この調書を作った者を証人として呼んである。

被告人の言う、全てを知る者であるぞ。

証人を、これへ。」


カシリューが座る左側に別の扉があり、そこから一人の男が入ってきました。

それがユスデノであるのは言うまでもなく、スロンゼルは目を見開き、サッテ
リは“そこまでするか”と呟き、レグリドムはため息をつきながら首を左右に
振りました。

「被告人、お主の望み通りだ。

特殊遊撃隊が隊長ユスデノ殿から真実を聞くがよい。」


自体を飲み込めるはずもないスロンゼルは、証人台に立つユスデノを凝視しま
した。

二人の間にだけ、先ほどまでとは違う緊張感が流れていました。




裁判所の玄関前には、ヤッヴとレシモスが地べたに座り、判決が出るのを待っ
ていました。

もはや楽観できないのは、この少年たちでさえ分かっています。ど

うしてなのかは、結局知らされぬままでした。

スロンゼルの処分が決まったら、それを持ってロリョートたちと共にマレアの
後を追う予定です。

だから、スロンゼルとはもうすぐ、本当にお別れなのです。

小枝で地面に落書きをしながら、レシモスがぽつりとつぶやきました。

「マレアに何て言えばいいんだろう?

任せておけ、なんて調子いい事言っておいて。」

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