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第四十八章「底なしの呪縛」【10】

「しょうがないさ。

ありのままを伝えるしかないんだ。」

「俺たち、結局何もできなかったよな。

ロリョートさんたちに食い物を持っていくぐらいで。」

「よくよく考えてみれば、俺たちに何ができるっていうんだ?

ただのガキだぜ。」

「挫折だね。」

「そんなの、今までだってあったろ。

それに、これからだって山ほどあるぜ、きっと。」


そんな彼らの耳に馬の蹄の音が聞こえてきました。

振り返ると、彼らは焦るように立ち上がりました。

ラスゼンが来たのです。

彼は立ち尽くすヤッヴたちに気付くと、優しく声をかけました。

「スロンゼルの事が心配か?」

「あ、うん、いや、はい。

そりゃあ、そうだよ。

スロンゼルさんはいつも俺たちに美味い料理を
作ってくれてたんだ。

なくてはならない仲間だったんだ。」

「どうしてこうなっちゃったのか分からないけど、とにかく
スロンゼルさんに最後まで付き合うよ。」

「スロンゼルは幸せ者だな。

お前たちのような仲間だいるのだから。」


それに引き換え、と喉まで出かかりましたが、ラスゼンは飲み込みました。

「ラスゼンさんもいい人だよ。

盗賊の為にここまで来てくれるなんて。」

レシモスの無邪気な発言が胸に刺さります。

真相を彼らに伝えられない自分が歯がゆいのです。

それに、ユスデノがリグ・テーテにいない事もラスゼンには気がかりでした。

彼もここへ来ているかと思ったのですが、違うようだと辺りを見渡していまし
た。

「そう言えば、ユスデノさんも来てくれたんだっけ。」

「何?」

「そうそう、怖い顔してたよな?

俺たちにも気づかなかったみたいだし。」

「それで、ユスデノはどこへ行ったんだ?」


そう尋ねるラスゼンの顔は、とても険しいものになっていました。

ですから、ヤッヴとレシモスは何かいけない事を口にしてしまったのかと恐縮
しました。

そして言葉を発する事も出来ず、指だけでユスデノの行き先を示したのです。

それは、裁判所でした。

「中へ…?

馬鹿な…!」




特殊遊撃隊が“猛き烈火”を倒した事は首都にまで知られている程で、この地
域の役人や軍人なら、さらに多くの者が知っているはずです。

それほど大きな功績なのです。

その隊長であるユスデノが証人として出廷してきたので、人々はますます注目
しました。

「スロンゼルは大変危険な男です。」


これがユスデノの第一声でした。

一拍おいて、彼は続けました。

「先ほど、カシリュー様が読まれた調書の通り、スロンゼルは
奸計を巡らしてチーレイを捕え、これを殺しました。

彼は決して苦しめられている人々の為とか、正義の鉄槌を
振りかざした訳ではありません。

あくまでも個人的な利益の為、そのためなら、あのチーレイで
さえも仕留めてしまえるほどの能力を携えた人物なのです。」


まるで、別人の声でした。

取調室で、息子たちの事を聞いてくれたユスデノ隊長とは別人だ、スロンゼル
にはそう思えて仕方がありません。

騙されたのか、何か考えがあっての事か、騙されたのか、騙されたのか…ぐる
ぐると黒い渦に巻き込まれていくようでした。

「この風貌には、私ですら善人と信じ込んでしまう所でした。

スロンゼルの中に巣食うのは、得体の知れぬ化け物です。

そのかぎ爪は、女子供をも容赦なく引き裂いてしまうでしょう。

私にはそれが手に取るように分かるのです。

スロンゼル率いる大盗賊団が、リグ・バーグを蝕んでいく様が。

こ奴を野放しにしておく事は、せっかく終わりかけている盗賊の
時代を、再び呼び起す危険を見逃してしまうのと同じ事です。」


証人と言いつつ、これが全て推測であるのは、傍聴席の人々にも分かっていま
す。

ただ、国家の敵とも言うべき“猛き烈火”を討伐した男の言葉なら、と疑いを
持つ者はほとんどいなかったのです。

真実を知るサッテリやレグリドムを除いては。

裁判官カシリューはスロンゼルに問いかけました。

「どうかな、被告人よ?

ユスデノ隊長の証言は、お前の本性をずばり言い当てておるのでは
ないかな?

先ほどは否定したようだが、それは忘れよう。

そして今一度、自分の口から告白する機会を与える。

被告は、リグ・バーグを揺るがす悪党になり得るか否かを。」

裁判室内の空気をスロンゼルも感じ取りました。

このままでは国家に反逆する大悪党に仕立て上げられてしまうと。

しかし、なぜ自分なのか、とも。

「ユスデノ隊長があんな事を言うなんて、信じられません。

でも、私の答えは変わりません。

真っ赤な嘘です。

確かに私は盗賊団に身を置いていたが、務めはただの料理人だ。

来る日も来る日も腹をすかせた仲間たちに飯を作っていた。

本当にそれだけなんです。人を殺したのもチーレイだけなんです。」

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