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第四十八章「底なしの呪縛」【7】

「許すとか許さないとかじゃなくて、そもそも俺は
父親を恨んだ事なんて無い。

腹なんて立てられるか?

俺は父親の顔どころか、スロンゼルという
名前さえ知らなかった。

ユスデノ、あんたが何も教えてくれなかったからだ。

ガキの頃からいつも考えていたのは、どんな人
だったんだろうかって、そればっかりだ。

そんな事を二十年以上考え続けていたから、期待は
どんどん膨らんでいった。

山のように大きくて強い人だと、人の上に立ち、
広い心を持った完璧な人だと。

ところが、いざ本物に会ってみると、どこにでもいるような
平凡極まりない面だった。」


そう言うと、ラスゼンは俯いたまま笑うのです。

「でもよ、父親ってのはあんなものかなって思ったりもしたよ。

俺も歳をとったらあんな顔になるんだろうなって。

ただ、それが嬉しかったよ。」


背を向けるユスデノがどんな表情をしているのか、それはラスゼンには分かり
ません。

思いが百八十度違う弟に落胆しているか、怒りがこみ上げているか。

「そうだ、嬉しいんだよ、俺は。

ひょっとしたら死んでるかもしれねえって父親に会えたんだから、
当然だよな?

叶うなら、俺はあの人を父さんと呼びたい、
鉄格子に挟まれていない所で。

親子として、今度こそずっと一緒に暮らしたい。

それが、俺の本心だ。」

「好きにしろ。」


ラスゼンは顔を上げました。

「だが、それは奴が刑期を終えて釈放されてからだ。

年老いてしょぼくれた奴の世話をする事に、俺は干渉せん。

俺は調書を直すつもりはない。」

「そうか…」


この時、ユスデノがくるりと振り返りました。

彼の右手は、腰に帯びた剣の柄に乗せられています。

「ただし、例外はある。

調書を作成した人物が死亡した場合、承諾がなくても
裁判の前なら訂正が可能だ。」

「剣でも同じだ、俺が勝っちまう…!」

「見くびられたもんだな。

俺とて今まで盗賊と戦い、生き残ってきた。

素手でやり合うより手ごたえは感じるはずだぞ。

強いユスデノを見せてやろう。」

「よせ、よしてくれ…」




ユスデノが抜こうとした瞬間、だだだっと隊長室に駆け込んでくる三つの影が
ありました。

「リアン、インザ、それにソマまで?!

お前ら、どうして…」


インザは早くも剣を抜いていましたが、さすがにどちらへ切っ先を向けるか分
からない様子です。

「お二人とも、おやめ下さい!」


そう叫んだのはリアンでした。

彼はラスゼンの様子に不安を覚えており、秘かに探っていたのです。

でも、もしも万が一の事があったら、自分一人では止められないと、インザと
ソマに声をかけたのです。

隊長と副隊長が斬り合うなど、初めは鼻にもかけなかったインザでした。

二人が口論をする場面は幾度となく目撃してきましたが、一線を越える事はあ
り得ないと確信していたのです。

ですが、これまでの経緯を語り、二人を救いたいと必死に訴えるリアンの姿
に、インザも従わざるを得ませんでした。

ソマは何でも参加したがる性質なので、即座に引き受けてくれました。

ラスゼンが隊長室に乗り込んだのを知ったリアンは、インザとソマが合流する
のを待ってから扉の前へ行き、機会を窺っていたのです。

「リアンの言う通りです。

喧嘩は駄目ですよ!」


ソマの表情にあまり真剣味は感じられませんでしたが、戦闘における切り替え
の早さは、並みいる少年兵の中でも特に秀でています。

インザの剣の腕前は皆の知る所で、恐らくラスゼンとまともに戦えるのは彼だ
けだろうというのが大方の予想です。

それを知っているからこそ、リアンはこの二人を選んだのです。

すぐに両手を上げたのはユスデノの方でした。

「本気にするな、お前たち。

俺がどれほどけしかけた所で、ラスゼンは相手にしてくれんのさ。

ましてや斬り合うなど、そんな真似などするものか。」

「本当ですか、ラスゼン様?」

「ああ、心配するな。

それからリアン、すまなかった。

お前には相当な負担をかけてしまった。

俺が追い詰められていると思って、ここまでしてくれたんだよな。

だが、俺はユスデノと殴り合いすらするつもりはない。

だからインザ、剣を納めろ。」


いつになくラスゼンの笑顔は穏やかで、インザは戸惑いながらも刀身を鞘の
中へ滑らせました。

ユスデノも小さく頷きました。

「今夜お前たちは当番じゃないはずだ。

さっさと帰って休め。」

「わかりました!

ラスゼン様も、早くコフィナ様の元へお帰りを!」

第四十八章「底なしの呪縛」【6】

「お前の手は温かいな、ヤッヴ。」

「スロンゼルさん…」

「私は明日裁判を受けるが、どんな判決が下っても、
お前たちは取り乱すんじゃないぞ。

落ち着いて、ありのままを受け止めるんだ、いいな?」

「そんなの…」


約束はできないヤッヴでした。

でも冷静になった彼は、マレアとマスグが一足先にマセノアに向かった件につ
いて、スロンゼルに話したのです。

「入院しているのか、それは心配だな。

マレアはどんな様子だったんだ?」

「そりゃあ、落ち込んでたよ。

いつもと違って、全然元気が無かった。

でも出発前にロリョートさんたちが釈放されたのを知って、
少し笑ってた。」

「そうか、お母さんに無事会えているといいな。

私は見舞ってやる事は出来んだろうが。」

「マレアの方も気になるけど、僕はやっぱり
スロンゼルさんの方が心配だよ。」


決められた面会時間が終わり、ヤッヴはスロンゼルの前から去って行きました。

外へ出て日の傾き具合を確かめた彼は、急いで馬にまたがりました。

「夜になっちゃう!

あっという間に明日だ!」




時間は容赦なく過ぎていきます。

ユスデノの計画は、揺るぎなく完遂されようとしています。

やがて太陽は茜色に染まり、今日の終わりが近づいています。

ユスデノは隊長室の窓から、変わりゆく太陽の姿を見守っていました。

彼は時の流れをどう感じているのか。

そこに、いきなり扉を開けてきたのはラスゼンでした。

しかし驚くユスデノではありません。

「ようやく来たか。時間切れになるぞ?」

「ユスデノ、俺はどうしたらいいんだ?

力ずくでも調書の訂正を承認させるべきなのか?」

ラスゼンの顔は迷いに満ちています。

ユスデノと殴り合い、拳でねじ伏せて従わせる。

乱暴でも手段はそれしかないと思われました。

「でも、俺はそんな事したくねえんだ。

ユスデノと喧嘩なんて、出来っこねえ。」

「小さい頃は、よく取っ組み合いをしたものだな。

パンの大きさが違うとか、どうでもいい理由で。

お前は、叶わなくても俺に向かってきた。

いつしか、体の大きさは逆転し、お前は俺を超える大男に
なっていた。

もしも、今やり合えば、お前が勝つだろう。

俺に“うん”と言わせるにはこれが一番の近道だぞ、
どうした、やらないのか?」

「やらねえ。」

「なぜだ?

今ならまだ間に合うというのに。」

「やりたくねえんだ。

ユスデノに勝ちたくねえ。

まともにやり合えば、俺が勝つに決まってる。

けど、それは駄目だ。

ユスデノは、ラスゼンに負けちゃいけねえんだ。

勉強でも、剣術でも、全てにおいてユスデノが俺の目標だ。

それは死ぬまで、ずっとだ。

たとえ殴り合いでも、俺は勝つ訳にはいかねえ。

もしも追い越しちまったら、何を目標にしていけばいいのか、
分からなくなっちまう。」

「感傷的だな。

そのために、お前は自分が正しいと信じている道を進めなくなる。

俺が作った調書が間違いだと判断しているのに、
黙認する結果となる。」


ユスデノに痛い所を突かれても、ラスゼンの表情に決意がみなぎる事はありま
せん。

自分がここへ何をしに来たのか、ユスデノは分からなくなっていました。

「父親が無実の罪を着せられようとしている。

お前はそう主張してきた。

それなのに、見殺しにする事になる。」

「ユスデノ、あんたにとって父親とは何だ?

憎悪の対象でしかないのか?」


ユスデノは窓から外を眺めたまま、ラスゼンは俯くままでした。

「憶えてはいないだろうな?

俺たちの父親は小さな料理店を営んでいた。

決して儲かっていた訳じゃないが、店はいつも
多くの客で賑わっていた。

俺は時々厨房に潜り込み、父親の仕事を見ていた。

包丁で野菜を刻み、鉄鍋で肉をいため、美味そうな料理を
次々に作っていた。

俺がすぐ後ろにいても、父親は気付かず調理に夢中だった。

俺は漠然と思っていたよ、“俺もあんな仕事がしたい”って、な。

父親は俺の憧れだった。

同時に、店の手伝いをする母さんの姿も俺は見ていた。

どれだけ忙しくても、母さんは笑顔を絶やさず働いていた。

お前は、そんなに大きくなるなんて夢にも思わないほど小さかった。

分かるか、あの頃が、俺たちの最も幸せな時だったんだ。

金なんかじゃ買えない、かけがえのない時間だ。

それを自らの意思で壊したのが、あの男だ。

四人一緒だったら、たとえ戦争でも幸せでいられたはずだ。

母さんの運命も変わってた。

あんな荒れ地で死体となって転がっていた母さんの姿を、
俺は頭の中から消し去ることができない。

もちろん、チーレイや“猛き烈火”、全ての盗賊を
許せないと思った。

だが、それ以上に憎いと思ったのは、あいつだ。

よくも今まで、のうのうと生きてきたものだ。

奴には罰を与えねばならん、それが俺の全てだ。

ラスゼン、それでもお前は奴を許そうと思うのか?」

顔が見えなくなるほど下を向くラスゼンは、普段と比べ物にならないほど小
さく沈んだ声で答えました。

第四十八章「底なしの呪縛」【5】

「スロンゼルが犯した罪を裁くのは、
かつて息子であった私の役目です。」

「息子が親を裁くなんて、やってはいけない事だと私も思うわ。

家族は、許し合うものよ。」

「やめましょう、同じ話の繰り返しになるだけです。

ラスゼンに伝えてください。

言いたい事があるなら、お前が直接やって来い、と。」


ユスデノはウィレオに背を向け、窓の外へ視線を移しました。

景色を眺めているとは思えません。

「あなたの罪は、誰が裁くの?」

ウィレオはぽつりと言い残し、ユスデノの元から去って行きました。




その頃ラスゼンはリグ・ウトートの裁判官レグリドムと面談をしていました。

裁判の日程をずらしてもらうためです。

スロンゼルにまつわる全てを聞かされたレグリドムは、目を閉じてじっと考え
込みました。

「恨みを晴らすために、ありもしない罪を被せようとしているんだ、
ユスデノは。

そんな裁判、行われるはずが無いよな?」


むむっ、と絞り出すように呻いた後、レグリドムはこのように言いました。

「確かに、正しい裁判のあり方とはいえん。

しかし、今回のユスデノのような例も、決して少なくはない。

間違っていると分かっているのに、裁判が行われるのだ。

なぜなら、それを禁じる法律が無い。

道徳というか、暗黙の了解だけなのだ。

自分の感情や都合を押し付けてはいけない、というのは…」

「感情だけの問題じゃねえ、スロンゼルには罪が無いんだ。

濡れ衣はさすがに禁止されてるだろ?」

「無論だ。

だが、たとえ確信的だとしても、それにはユスデノの
自白が必要だ。

できるのか?」

「自白は取る。

だから、裁判の延期を決定してくれ。

一日でいいんだ。」

強く出るラスゼンですが、レグリドムはびくともしません。

「ラスゼン、順番を間違えてはならん。

延期させるだけの材料を用意しろ、と私は言っているのだ。

事情は理解できるが、間違いに対して、
間違いで対抗する訳にはいかん。」

それに、とレグリドムは付け加えます。

「状況はお前にとって良くない方向へ向かっておる。

スロンゼルの裁判を受け持つのがカシリューに決まった。」

「カシリュー?

誰だ?

あんたじゃなかったのか?」

「うむ、私もそのつもりでいたのだが、
急きょ変更になったのだ。」

「前日にか?

それで、そのカシリューが裁判をすると、どう良くないんだ?」

レグリドムはラスゼンに顔を近付け、声を潜めました。

「盗賊の裁判において、特に厳しい判決を下すことで有名な男だ。

通常の裁判官が禁固十年と言い渡す所を二十年、
二十年なら三十年にしてしまうようだ。

やり過ぎだという批判も一部あるほどだ。

下手をすれば、スロンゼルは牢の中で一生を
終える可能性もある。

お前さんの言うように、ユスデノが父親に復讐しようと
しているのなら、カシリューはまさに適任という訳よ。」


ラスゼンは、背中にじんわりと冷たい汗をかきました。




リグ・テーテに残ったヤッヴとレシモスは、ただじっとしている訳ではありま
せん。

レシモスは隠れているロリョートたちに食料を届け、ヤッヴはスロンゼルに現
状を報告しに行くのです。

ようやく面会の許可が下りたという事です。

冷たい鉄格子に閉じ込められたスロンゼルは、焦りも苛立ちもないようでした。

ロリョートたちだけが先に釈放されたのを知っているのに、特に心境の変化は
見られません。

「良かったじゃないか。

これであいつらも、故郷へ帰れるという訳だ。」


ヤッヴは鉄格子を両手で掴みました。

「おかしいとは思わないの?

元はといえば、セッツァさんのせいでスロンゼルさんまで
捕まっちゃったのに。」


するとスロンゼルは寂しく笑いました。

「そうだな、セッツァには反省するよう伝えておいてくれよ。」


手ごたえの無さに、ヤッヴの声に熱がこもりました。

「何だよ、それ?!

甘過ぎるんだってば!

俺たち、もうスロンゼルさんの料理が
食べられなくなっちゃうから、すごく困ってるのにさ!」


声の音量が上がったため、通路の向こうにいる兵士が顔を向けています。

「ありがとう、ヤッヴ。

だが、私には償わなくちゃならん罪がある。

こうしてその機会を与えられたんだ。

実は、少しほっとしてるんだよ。」

「それって家族の事だろ、まだ言ってんの?!

スロンゼルさんのせいじゃないよ、悪いのはチーレイだろ!」

「いや、私だよ。」

「どうしてさ?!

こんなに暗くて狭い所にいて、嫌じゃないの?」


スロンゼルは手を伸ばし、鉄格子を掴むヤッヴの手を握りました。

はっ、とするほど冷たかったのを、ヤッヴは感じました。

第四十八章「底なしの呪縛」【4】

「ラスゼンの言う通りだと思うか?」

「もしも嘘だったら、ラスゼン様が言うとは思えないわ。

でも、ユスデノ様のお父様に対する思いを、
私は聞いたことが無いもの。

もしも恨みがあるなら、お母様が亡くなった原因がお父様に
あると思っているなら、辻褄は合うわ。」


その調子よ、ウィレオは心の中でネラを応援しました。

「過去の話をしよう。

あの男が俺たちを置いて出て行ったのは、大戦の最中だ。

軍は徴兵に応じた者に金を出した。

奴はそれに乗っかったんだ。

金の為に、母さんや幼かった俺たちを置き去りにしたんだ。

“すぐに戻るからな”というあいつの声は、
今でも耳に残っている。

だが、奴は帰ってこなかった。」

「それは、何か事情があったのかもしれないわ。」

「どんな事情だ?

母さんは殺されたんだぞ。

それを超えるような事情とは、一体どんなものだ?!」

ユスデノの声に怒気を感じ、ネラは半歩後ずさりしました。

「分からない事言わないで。

あなたのお父様は戦場へ出ていたんでしょ?

だったら、予定通りにならない事なんて、
いくらでもあったはずだわ。

いくら帰りたいと願っても、軍にいたら勝手は
許されないもの。

ひょっとして逃げ出そうとしたら捕まって、何年も
牢に入れられていたのかもしれないじゃない。」

ユスデノは蔑むように笑いました。

「そりゃあ、あの男にお似合いの事情だな。

逃げる事にも失敗し、何の役にも立たずに牢屋暮らしか?

だから許せというのか。

違うな、戦場に出て行った事がそもそもの間違いだ。」

「今のは私の想像にすぎないわ。

もっと納得できる理由があったかもしれないでしょ?

その、病気になったとか、怪我をしたとか…」

「無駄だ。

どんな理由とやらを持ってこようと、
俺は奴を許すつもりはない。

俺にとっては奴こそが、全ての盗賊を超える悪党なのだ。」

「ユスデノ様、あなたはこの為に生きてきたの?

全ての盗賊を退治しようとしたのではなく、
お父様に復讐をしようと。

そんな悲しい人生でもいいの?

お父様がお母様を殺した訳ではないのに、
そんなの逆恨みもいいとこだわ。」

「好きなように言うがいい。

俺の悲願は成就される。

あいつは牢獄で無駄な十年を過ごすんだ。

明日が待ち遠しいよ。」


その瞬間、ネラの平手打ちがユスデノの頬に命中しました。

ぱしん、という乾いた音が部屋中に響きました。

ネラの鼻が赤く染まっています。




「どうかしてるわよ!

自分の父親に罰が下されるのを願うなんて!

こんなに歪んだ人だとは思わなかったわ!

私はあなたを尊敬していたのに!

子供を戦わせることには抵抗があったけど、この街を
守ってくれているのは素晴らしいと思っていたわ!

あなた自身、自分の仕事に誇りを持っていると思っていたもの!

私のちっぽけな仕事に比べたら、なんて立派なんだろうって!

それがなによ、私怨の為に隊長の立場を利用するなんて、
がっかりしたわ!」


ネラの目には涙がうっすらと滲んでいました。

「先生の仕事はちっぽけではない。

子供の可能性を広げる手伝いをしているんだ、
それも素晴らしい事じゃないか。」

「ユスデノ様…」

「まあ、そんな話はどうでもいいが。

先生は私を説得しに来たのではなかったのか?

感情的になっては、成功率が下がるだけだぞ?」

「感情を持ちだしてるのは、あなたよ。

例え過去に何があったとしても、家族よ、お父様なのよ?」

「憎むべき存在だ。

全ての元凶だよ。」

「ねえ、二人しかいなかった家族に、コフィナさんが加わって、
お父様まで現れたのよ?

素晴らしいじゃない。」

「俺の家族はラスゼンだけだ。

コフィナなど、俺たちの間に厚かましく
割り込んできただけの女だ。」

「あなたは…なんて人なの…!!」

落胆の色を露わにしたネラは踵を返し、隊長室の扉を開け、出て行きました。

廊下には固まってしまったウィレオが立ち尽くしています。

ネラは彼女に視線をくれる事もなく、こう言いました。

「ごめんなさい、私はやっぱり何の役にも立たなかったわ。

また、学校で会いましょう。」


鼻をすするネラの声が、ウィレオの胸を締め付けました。

歩き去るネラの背中に、ウィレオはどんな言葉もかける事ができません。

開け放たれた扉の奥では、ユスデノもまた立ち尽くしていました。

「ウィレオ様。」


呆然としていたウィレオの姿は、ユスデノから丸見えになっていました。

彼女は少し怯えたように体を震わせました。

「あの…ごめんなさい。

私、ネラ先生の言葉ならユスデノ様も素直に
聞いてくれるんじゃないかと思ったの。

悪いのは私なの、お願いだから先生を嫌いにならないで。」

「ラスゼンは?」

「えっ、…あ、とても深く落ち込んでいるわ。

ユスデノ様の、お兄さんのしている事が信じられないのよ。」

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