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第四十八章「底なしの呪縛」【3】

「これによれば、あなたのお父上は相当落胆しているようですね。

だったら、息子が二人とも立派に育っていると知れば、
きっと元気になりますよ。

ユスデノ殿がお父上を憎んでいるとして、あなたには恨みも何も
無いのであれば、話してあげるのがいいんじゃないですか。」

「ああ、…いや、はい、自分もそう思います。」

「仮にユスデノ殿が本当にお父上に重い罪を被せようと
しているとしても、その事までお父上に告げる必要は
無いんじゃないと思いますよ。

二人が生きていて、“お父さん”と呼んであげれば
いいんじゃないでしょうか?」


ラスゼンは床を見つめたまま答えました。

「まさに、サッテリ様の言う通りです。

ただ、俺は、できればユスデノと二人で父親にそういう話を
したいと、俺たちが息子だと、いつか現れる父親にそう言おうと、
ガキの頃から夢見てきたんです。

ユスデノもそう望んでると信じてた。

それなのに、とても叶いそうにないなんて、
胸が張り裂けそうです。」

「今はお父上を元気づけてあげる事を最優先とすべきですよ、
ラスゼン殿。」


ユスデノの父親に対する憎しみは、恐らく子供の頃からなのだろうとすると、
自分の夢は既に音を立てて崩れてしまったのだと感じ、ラスゼンはとても深く
落胆したのです。

サッテリはこれ以上彼を励ましようがありません。

チゴネスも腕を組んだままで一言も発しません。

「我が妻ウィレオがどこまでやってくれるか、様子を見てみましょう。

ラスゼン殿、お茶でもいかがですか?」


しかしラスゼンはサッテリの誘いを断り、部屋を出て行きました。

チゴネスは思い出したように食卓の果物にかぶりつきました。




ウィレオの馬車は特殊遊撃隊の駐屯所へ到着していました。

門番役の少年兵がぼんやりと見つめています。

馬車の中から出てきたのは、オデリン学校の教師ネラです。

出てきたとはいっても、片方の足を地面に着けただけで、次の一歩を踏み出す
事が出来ずにいました。

彼女の背後には、ウィレオがふんぞり返っています。

そう、彼女はいともあっさりと、スロンゼルの秘密をネラに喋ってしまったの
です。

聞かされた方は簡単に理解できる訳もなく、ウィレオに強引に手を引かれ、馬
車に乗せられてここまで来たのです。

さあ、と背中を押されても、到底行けるものではありません。

片足で踏ん張り、ウィレオに顔を向けました。

「ウィレオ、私がユスデノ様を説得って、どうすればいいの?

私はただの教師なのよ?」

「もちろんネラ先生はオデリン学校にいる教師の中の一人よ。

でも、ユスデノ様は他の先生の言葉なんて心にも留めないわ。

だって、誰も本音を口にしないもの。

だけどネラ先生は特殊遊撃隊の隊長に臆することなく物を
言うじゃない。

それができるのは、この街であなた一人だけよ。

みんな感心してるわ、度胸のある女性だって。

きっとネラ先生ならユスデノ様を説得できるわ。

頑張って!」


それだけ言えるなら自分がやればいいじゃない、という言葉を飲み込んだネラ
は、自分の髪をぐしゃぐしゃとかきむしりました。

少し冷静に考えてみれば、確かにユスデノを思い留まらせなければいけないと
いうのは分かります。

「だからって、どうして私がやらなくちゃいけないの?」


恨み節を呟き、ぼさぼさの頭で駐屯所へ入って行くネラでした。

隊長室で彼女を出迎えたユスデノが目を丸くしたのは言うまでもありません。

「事故にでも遭ったのか?」


素直にそう尋ねる次第です。

「そうね、ある意味とんでもない事故だわ。

なるべくしてなったと言わざるを得ない所が残念だけど。」

「何を言ってるんだ?」

「独り言よ、気にしないで。

とにかくユスデノ様に話があって来たんですから、聞いてください。

私の中でも、まだ整理がついていないのだけれど。」

「ふむ。

いいさ、そんなに忙しい訳じゃない。

落ち着いて話せばいい。」

「そんな余裕は無いみたいよ。

何しろ、今日が期限のようだから。」


ユスデノの切れ長の目が、ややつり上がりました。

「ラスゼンが先生に頼んだのか?」

「ウィレオの独断みたいよ。

でも、ラスゼン様はチゴネス様やサッテリ様にも
お話ししたらしいわ。

裁判の日にちを延期してくれるよう頼んでくれないか、って。

でも、あまり色よい返事は頂けなかったみたいなの。」

「なるほど。」

「それで、私はユスデノ様に真意のほどを確かめるために
派遣されたという訳よ。

本当にお父様を刑務所に入れるため、調書をねつ造したのかどうか。」

「そんな事まで話したのか。」

隊長室の外には、扉に耳を押しあてるウィレオの姿がありました。

怪訝な顔の少年兵が近付くと、彼女は唇の前に指を一本立てました。

ユスデノは呆れたような笑みを浮かべていました。

第四十八章「底なしの呪縛」【2】

「暮らしていた町も、奴の妻の名も、息子の名も、
全てが当てはまる。

あの白い首飾りもそうだ。

スロンゼルはそれを、自分の妻に贈ったものだと言っている。

スノとスゼ、それは俺たちだ。

母を亡くした後、俺たちは名前を変えた。

忌まわしい過去を捨てるため、だけど全てを忘れてしまわないため。

俺の気付くのが遅れたのは、父親の名を知らなかったからだ。

俺は物心も付かないほど幼かった。

ユスデノは母親の名は教えてくれたが、父親の事は
何も話してくれなかった。」

「どうして?」

「あいつは、ユスデノは父親を憎んでいる。

心の底からだ。

俺たちが兄弟二人で生きてこなければならなかったのは、
父親のせいだと思ってるんだ。

母親を殺され、俺たちは野原に放り出された。

たまたま通りがかった男に拾われ、どうにか
生き延びる事が出来た。

でも、ユスデノはその時からずっと父親への恨みを
積み重ねてきたんだ。」

「ユスデノ殿も気付いているのか?」

「もちろんだ、俺より先に。」


サッテリがつぶやき、チゴネスも口を開きました。

「まさか、スロンゼルの罪が重くなったというのは、
ユスデノの画策なのか?」

「それしか考えられねえ。

あいつは復讐を果たそうとしているんだ。

だが、こんな事はあっちゃならねえ。

盗賊に厳罰を与えるのとはわけが違う。」


ラスゼンは目を赤く腫らしていました。

「ユスデノとは話をしたのか?」

「した。

だが、あいつは必ずやり遂げるつもりだ。

確信はしてるが、もしも本当に復讐が果たされてしまったら、
俺は自分がどうなってしまうか分からねえ。

清廉潔白に生きてきたユスデノに、
ずっと俺を守ってくれてたユスデノに、
そんな真似はさせられねえ。

だけど、落ち着いてから説得するとか、そんな時間的余裕が
無いんだ。

スロンゼルの裁判は明日に迫ってる。

判決が下りちまったら終わりだ。

罪も無いのに大罪人にされてしまう。

だから、せめて時間が欲しい。

一日でも二日でもいいから、ユスデノを心変わりさせるために
説得し続けたい。

頼む、チゴネス様、裁判の延期を向こうに
かけ合ってもらう訳にはいかねえか?」


ラスゼンが深々と頭を下げました。

このような彼の姿をウィレオは見た覚えがなく、これがシノンの姉の頼み
だからとかなど関係なく、願いを叶えてやりたいと思いました。

しかしチゴネスは右手で顎をさすりながら、考え込んでいました。

現実は自身の立場も微妙な状況です。

政府に借りを作りたくないのが本音です。

そんな彼の心中を察したサッテリが、次のように言いました。

「ラスゼン殿、力になってやりたいのは山々ですが、
非常に難しい問題でもあります。」

「正式にというのであれば時間がかかるし、非公式に
というのならば尚更面倒が持ち上がる可能性も高い。

あなたは私たちを何度も救ってくれています。

だけど、今回は話が違う。

父の権威が失墜してしまうかもしれない、重要な問題なのです。」


椅子を弾き飛ばして立ち上がったのはウィレオでした。

夫の言葉があまりにも意外だったからです。

「ラスゼン様は小さな頃に別れたお父様と、ようやく会えたのよ。

それなのに、また十年も離れて暮らさなければならなくなるなんて、
悲しすぎるわ。」

「ウィレオ、私だって父が心配なんだ。

それに、どんな理由があっても、どうにもならない事だって
世の中にはあるんだよ。」

「いいわ、だったら私が説得するわよ、ユスデノ様を。」

「無理だよ。

君の言う事を聞き入れてもらえないだろうというのは、
僕にでも分かる。」


しかしウィレオは勝算ありげな表情です。

「正確に言うと、私は頼むだけよ。

実際にユスデノ様を説得するのはネラ先生なの。」

「君は何を言ってるのか分かってるのかい?

あの二人は水と油のような仲なんだよ?

ネラ先生が説得しようとしても、それこそ逆効果に終わるよ。

それ以前に、彼女だって引き受けないさ。」


そう反論するサッテリに、ウィレオは“やれやれ”といった感じで手を振り
ました。

「分かってないのはあなたの方よ。

まあ、喧嘩ばかりしてるって噂も流れているから、
無理もないけど。

当人同士でさえ、お互いの存在がどれほど大きくなっているのか、
気付いてないみたいだし。

とにかく、ネラ先生が最も適任なのよ。

彼女の説得なら任せておいて。

早速、行ってくるわ。」

ウィレオは男たちを残し、馬車に乗ってチゴネスの屋敷を後にしました。




静かになった部屋で、サッテリがラスゼンにこう言いました。

「すまないね、ラスゼン殿。

ウィレオもあなた方の為にと張り切っているようだ。」

「今は藁にもすがる思いだから、ありがたい話です。」

「引っかき回してくれない事を祈るばかりだけどね。

それより、お父上には真実を話されたのですか?」

ラスゼンは首を横に振りました。

「どんな風に切り出せばいいのか分からなくてよ。

いいや、それ以前に、俺はそれを伝える気があるのか
どうかすら分からねえ。」

サッテリはもう一度便せんに視線を落としながら、こう言いました。

第四十八章「底なしの呪縛」【1】

少しだけ、ラスゼンの口元が笑みを湛えたように思われました。

「…ラスゼン様…」

「今は詳しく語る事が出来ん。

だが、いずれ話そう。

これに関しては、しばらくお前だけの胸にとどめておいてくれ。」


そう言うと、ラスゼンは雑草をついばんでいた自分の馬にまたがりました。

立ち尽くすリアンに、彼はこう言いました。

「お前が今朝提案してくれた事、何はともあれ
頼んでみなければならんようだ。

すまんが、お前には、また手伝ってもらう事になるだろう。

一旦、駐屯所へ戻ってくれ。」




野原にぽつんと建てられた小屋の中には、ロリョートとセッツァが隠れていま
した。

ヤッヴが届けてくれた食料を少しずつ食べながら、退屈な時を過ごしています。

ずっと座りっぱなしでは体がおかしくなりそうなので、時々狭い小屋の中をぐ
るぐると歩き回ったり、呻き声を上げながら体を伸ばしています。

「セッツァ、お前はまだ盗賊を続ける事にこだわってるのか?」

「いきなり何だよ?

…意固地になってる訳じゃねえ。

俺にはそれしかない、そう思ってるだけだ。」

「今回、俺たちが裁判所からたった一日で出てこれたのは、
たまたまのような気がしてならねえ。

本来なら、やっぱり十年は喰らってるはずだ。

どれだけ理想論に花を咲かせた所で、結局盗賊って職業は
そういう最期を迎えるんだ。」

「たとえそうだったとしても、俺には他に生きてく道なんて
無えんだ。

天職なんだよ、馬に乗って剣を振り回してるのが。」

「マセノアで、俺と商売を始めねえか?」


セッツァの言葉尻に被せるように、ロリョートは早口で言いました。

「商売?

俺が?

くだらねえ。」

「思い付きで言ってるんじゃねえぞ。

“手負いの熊”が無くなってから、ぼんやりと考え始めたんだ。

俺たちは息も合ってた、これだけは誰にも負けねえ。

クディカがいてくれれば、もっと良かったんだが、
それは言っても始まらねえ。

だけどよ、二人でもやれるはずだ。

ヤッヴとレシモスにも手伝わせて、今度はまっとうな仕事で
のし上がるんだよ。

どうだ?」


やや呆気にとられた表情のセッツァでしたが、それはすぐ失笑に変わりました。

「道理で盗賊に未練が無いはずだぜ。

まあ、いいさ。

ヤッヴとレシモスは、あんたが連れて行きなよ。

俺は俺の道を行くから。」

「駄目なのか?

俺の眼には浮かんでるんだぜ、俺たちの成功が。」

「よせよ。」

「どうしてだ?」

「考える時間があり過ぎて、本来の目的を忘れちまったか?

まずはスロンゼルが裁判所から出てきてから
考えるべきじゃねえのか?

重要なのは、そっちだろ。」


驚いたのはロリョートです。

「お前、あいつの心配をしてたのか?

今までずっと?」

「しちゃ悪いかよ?」

「いいや、そんな訳ねえ。

いい事だ。

スロンゼルが聞いたら喜ぶぜ。」


笑いを噛み殺そうとするロリョートを、セッツァは苦々しく睨んでいました。




リアンと別れたラスゼンは、チゴネスの屋敷へ来ていました。

ちょうど彼は昼食の最中で、たまたまサッテリとウィレオも同席していました。

残された時間はわずかなため、失礼を承知でラスゼンは彼らの食卓へ乗り込ん
だのです。

「その話なら、たった今ウィレオから聞いた所です。

またわがままにつき合わせてしまって、すまないね。」

「あ、いえ…」


サッテリもラスゼンも恐縮し合いました。

「私の命の恩人であるシノンのお姉さんから頼まれたんです。

それはぜひとも叶えて差し上げなくては。」


人任せにしているのに、とサッテリは言いたげですが、悪びれもしていない
ウィレオには右から左だと諦めました。

「どうかなされましたか、ラスゼン殿?

顔色があまり良くないようですが。」

サッテリは心配そうにしています。

ラスゼンはぐるんぐるんと顔を左右に振りました。

「時間がありません。

お力を貸していただきたい。」

いつになく神妙なラスゼンに、チゴネスたちも襟を正しました。

「話してみよ、ラスゼン。」


ラスゼンは視線を床に落としました。

「あれは…スロンゼルは…俺とユスデノの、父親だ。」

はた、と時が止まり、誰もが自分の耳を疑いました。

今、ラスゼンは何と言ったのか、と。

ウィレオとサッテリは顔を見合わせました。

「スロンゼルは、十八年前に生き別れた父親だ。

間違いない。」


ラスゼンは、リアンが走り書きした便せんをチゴネスに手渡しました。

たまらずウィレオも身を乗り出し、覗き込みます。

第四十七章「シノンの絆」【15】

市内を巡回する予定のミレオンは、今にも駐屯所を出発する所でした。

しかしラスゼンは姿を見せず、リアンがその役目を担いました。

上官のラスゼンから問い詰められるより話しやすいだろうと考えたからです。

もちろん、これもリアンからの提案です。

「一体、何の調査なの?」


ミレオンは不思議がりました。

盗賊の取り調べに同席した事は、これまでにも何度かありました。

でも、それについて尋ねられるなど、初めての事だったのです。

「君は良いよな、そんな経験を積む事が出来て。」

「どうしたの、リアン?」

「実はね、今度は僕も取り調べを任されるように
なるかもしれないんだ。

だけど、僕は君ほど取り調べの現場に立ち会った事が無い。

はっきり言って、知識も経験も不足しているんだよ。

だから、君に色々と教えてもらいたいんだ。」


もちろん、これは真っ赤な嘘です。

いくら兵士だといっても、リアンは子供です。

例えば取り調べをしようとしても相手になめられ、まともな話など聞けようが
ありませんから。

リアンは同僚をだます事への後ろめたさを感じるものの、正しい事をしようと
しているラスゼンを手助けするため、心を鬼にしているのです。

「そうだったの?

それはすごいや!

よし、僕も協力するよ。」


ミレオンは屈託ない表情で承諾してくれました。

この件は、ユスデノとラスゼンの間に多少の溝を生むかもしれません。

ミレオンには正直に話すべきだったかもしれませんが、彼を巻き込みたくない
とリアンは思ったのです。

隊長と副隊長の中が不破になった原因は自分にあると、ミレオンが自分を責め
てしまうような結果にしないためです。

また、そういういい訳を持っていなければ、リアン自身も自責の念に押しつぶ
されてしまうでしょう。

当時ミレオンは取調室の隅に立ち、話を聞いていただけで、覚書などを残して
いた訳ではありません。

ですから必死に記憶を呼び起こし、あいまいな部分もありながら、あの部屋で
交わされた会話の一部始終を彼は語ってくれました。

もちろんリアンの方は必死に筆をとり、主観は交えずあくまでも客観的に全て
を便せんに記しました。

果たして、この会話がどんな意味を持つのか、ユスデノ過去を知らぬ彼には分
かりません。




ミレオンとの話を終えたリアンは馬を走らせ、ラスゼンの待つ場所へと急ぎま
した。

街の北西にはわずかながら畑が広がり、主に野菜が栽培されています。

ラスゼンはここの青菜を大そう好み、店に出回っていない時はわざわざここま
で出向き、直接分けてもらう事もあります。

今は収穫を終えたばかりなので、茶色く枯れた葉や茎が散乱していました。

農民の姿も無く、寂しい空気が流れています。

リアンは目印となる大木を探しました。

これは、この辺りで一番大きな木という意味で、決してどこから見ても目立つ
ような大きさではありません。

ただ、少しだけ頭の抜け出た広葉樹を見つけ、リアンはそこへ向かってみまし
た。

幸いにも正解だったようで、根元にはラスゼンが腰を下ろし待っていました。

馬の蹄の音に、ふと彼は顔を上げました。

その表情に、いつものような力は込められていません

「お待たせしました、ラスゼン様。」

「いや、俺の方こそすまなかったな。

面倒な仕事を押し付けてしまって。」

声もまた、然り。

リアンは便せんを差し出しました。

彼の字がびっしりと書き込まれています。

受け取ったラスゼンは、文面に目を落としました。

「走り書きなので、読みにくい個所があるかもしれません。」

「心配するな。
お前の字はこれまでに何度も目にしているから、
解読は難しくない。」


リアンは、彼の表情をじっと見守っています。

役に立つものかどうか、不安でした。

普段のラスゼンは感情を隠さず表に出すので、顔さえ見ていれば大概分かるの
です。

ところが、今日のラスゼンからは何も読み取れないのです。

何ともいえず、ぼんやりとした表情でした。

広葉樹の生命力に負けてしまっているようです。

リアンは、彼のこんな姿を見るのは初めてでした。

全身が脱力したように、木の幹に体を預け、それでもずるずると崩れていって
しまいます。

リアンは、自分が記した文書のどこが彼をそうさせたのか、不思議で仕方があ
りません。

しばらくはお互い固まってしまったように、微動だにしませんでした。

やがて気を取り直したのか、ラスゼンは立ち上がりました。

「礼を言う、リアン。

お前のおかげで全てを理解できたよ。

奇跡のような偶然を期待していたのだが、それが
空しいものだと突き付けられた気分だ。

これで、俺の腹が決まった。」

 ― 第四十七章 完 ―

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