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第六章「野犬の長」【15】

「みんなありがとう。私、この気持ちをどうしたらいいかわからないから、みんなに熱いキスをしてあげる!誰からがいい?」
三人はぎょっとして首を振りました。
「お、俺はいいから。パティン、お前がしてもらえよ、俺の分も。」

パティンは真っ赤になりました。
「え…ぼ、僕もいいよ。今日はキオが一番頑張ったから、キオがしてもらえばいいんじゃない?」

キオは目を丸くして息を呑みました。
「いや、僕は大丈夫。大して頑張ってないから。そんなことしてくれなくてもいいよ。」
「やあねぇ、みんな照れ屋さんなんだから!いいわ、今日のキスはとっておいてあげる。だからキスがしたくなったらいつでも私に言ってね!」

笑っているのはシノンだけでした。

         

子供たちは疲れて病院のベッドでぐっすりと眠っていました。そこへデムとルド、ルイルの兄・アッケがやって来ました。デムは顔面蒼白です。メリソン先生は寝ているところを起こされたのでほとんど目を閉じながら、デムにミロアの容態について話しました。
「…シノンには本当のことは言っておらんよ。今回の発作は病気がかなり進行しているという証拠だな。これからもこの発作は起こるよ。そして発作の起こる間隔が短くなってきたら、いよいよだと思いなさい。」
メリソン先生はゆっくりと、丁寧に話しました。デムは愕然としました。
「そんな…先生、妻の病気を治す方法は無いんですか?」

先生は少し考え、そして首を振りました。
「今までできるだけのことはやってきた。だがどうにもならん。発作を抑える薬も無い。無理に仕事なんかせずに安静にしておれば、発作が起きるのはもっと後だったかもしれんが…」
「ミロアは根っからの働き者なんで、私が寝ていろと言っても農園に行ってしまうんですよ。」
メリソン先生はデムに向かって顔を突き出し、彼をぎろっと睨みました。
「お前さんがだらしないからじゃないのかね?」
先生は明らかに怒っていました。デムは何も言えず、先生から目をそらしました。
「白森の人らは噂しておるよ。お前さんは大して働きもせずに飲んだくれているそうじゃないか。病気のミロアと、あんなに小さいシノンにだけ仕事をさせてな!ミロアは無理をせざるをえんかったんじゃないのかね。」

デムは両手で顔を覆いました。
「ああ、私は何てことを…私は欲に目がくらんで大切な娘を手放してしまいました。私はそのことで何をするにも億劫になってしまい、挙句に酒に逃げたのです。お許しください、もう二度とこのようなことはいたしません。ですからメリソン先生、どうか妻をお助けください。」
「謝る相手が違っておるな。だが、まあいいだろう。…それ、こいつを受け取りなさい。」

先生は一通の封筒をデムに差し出しました。デムは顔を上げ、封筒を手に取りました。デムは封筒をしげしげと眺めました。封筒の表には<ヨンロン先生へ>とだけ書かれています。
「先生、これは一体…?」
「中身はミロアの紹介状だ。それを持って明日にでも“偉大なるアーロイ”市の私立病院にいるヨンロン先生を訪ねなさい。」
デムにはどういうことかわかりませんでした。
「こんな小さな病院では治療にも限界がある。そう思って私はヨンロン先生にミロアの病気について助言を求めたことがあるんだ。だがそこでもミロアの病気を直す方法は無いらしい。ヨンロン先生はミロアが発作を起こしたらうちに入院させろと言ってくれたよ。あそこの私立病院なら、ここよりも少しはましな治療ができるはずだ。ヨンロン先生は人柄も大変素晴らしいお人だ。医者としての腕も私が太鼓判を押そう。安心して任せられる医者だよ。」

先生の顔は少し優しくなりました。
「でもミロアの病気は治らないのでしょう?」
「確かにその通りだ。それでもここにいるよりはいいはずだ。医者がこんな事を言うのはいかんのだろうが、彼ならきっと一日でも長くミロアの寿命を伸ばしてくれるに違いない。後はミロアをゆっくりと休ませてやることだけだ。」
しばらく間があいてから、デムは泣きはじめました。口を手で押さえましたが、それでも声が漏れていました。メリソン先生はデムの肩に手を置いて、こう言いました。
「デムよ、まじめに生きなさい。ミロアはまじめに生きておる、シノンだってそうだ。お前さんが一所懸命に働くことが家族に安らぎを与え、支えにもなるのだぞ。」
デムは涙を流しながらうなづきました。病室の子供たちは、ルドとアッケに見守られて、何も知らずに眠っています。とにもかくにも彼らは古森を通り抜けることができました。心なしか、彼らの寝顔も誇らしげです。

             ― 第六章 完 ―

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