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第六章「野犬の長」【10】

そこへたまたまパティンとシノンが通りかかりました。
「あ、ルイルだわ。ルイルが来てるわ。」
ルイルの名を聞いて、彼には珍しく素早い反応を見せました。パティンの視線の先には、キオの隣で顔を下に向けたルイルがいました。ルイルとパティンはそのままで動こうとしません。そこでシノンがまず声をかけました。
「ルイル、どうしたの?」
答えたのはキオです。
「ルイルも手伝いに来てくれたんだよ。」
「本当に?!ありがとう、ルイル。」
シノンは素直に喜びました。ルイルとパティンはまだ固まったままです。
「ルイル、パティンに何か言いたいことはない?」
「別に、何も無いよ。」
「本当に?じゃあパティンは?ルイルに言っておきたいことがあるんじゃないの?」

パティンはもごもごと何か言いました。
「え?」
キオが聞き返しました。
「僕はお人好しなんかじゃない…シノンやシノンのお母さんが困ってると思ったから手伝ってるんだ。シノンは友達だから。それなのに、どうして手伝っちゃいけないの?」
ルイルはびっくりしました。パティンが自分の思っていることをこんなにはっきりとしゃべったのを聞くのはこれが初めてでした。
「わ、悪いなんて言ってないだろ。ただ何の得にもならないのに仕事をするなんて変だと思っただけだよ。」
「得ってどういうこと?どうしたら得だって思えるの?」
「わ、わからないけど…」

ルイルは少し目をきょろきょろさせました。今日はルイルとパティンの立場が逆だとキオは思い、おかしくなりました。その時、思い出したような顔をしたルイルが、キオのほうを向きました。
「大体、キオが三人で手伝おうなんて言うからいけないんだ。俺に無理やり手伝わせようとするから…!」
キオは右手の人差し指で自分を指し、目と口を大きく開けました。
「そうだよ、僕は一人で手伝うつもりだったのに、キオが三人で手伝うって勝手に決めちゃったからだ。」

キオはルイルとパティンの顔を交互に見比べ、呆気にとられました。
「どうして僕のせいになってるの?」
「あんた達、馬鹿じゃないの?」

シノンが大声で怒鳴りつけました。でもシノンの顔は笑っています。それに、思えば彼女のこんな元気な声を聞くのは久しぶりなのかもしれません。
「そんなことで言い合ってる暇があったら、三人とも早く手伝いなさいよ!」

シノン・サグの命令に従い、三人は彼女の手伝いを始めました。でも農園での仕事なら慣れたもので、一度働き出せば彼らはかなり役に立ちました。三人はすぐに役割分担をしました。土を掘り返すような力のいる仕事はルイルがこなし、落ち葉を集めたりする仕事はパティンが中心となり、キオはそのどちらも手を貸しました。かくして作業は順調に進み、シノンも一安心といったところでした。デムの姿は朝から見当たりませんが、この調子なら後三、四日で全ての仕事が終わるでしょう。彼女は鼻歌交じりに母親の姿を探しました。ところが、ミロアの姿はなかなか見つけられません。ひょっとして、また具合が悪くなったのではないかと、シノンは心配になりました。シノンは周りをきょろきょろとしながら農園をはじからはじまで小走りで進みました。もうすぐ自分の農園の境界線までたどり着くというとき、彼女は自分の悪い予感が的中したと思いました。木の根本にミロアが横たわっていました。シノンからは母の顔は見えず、彼女は恐る恐るミロアの背後から回り込みました。ミロアは顔が真っ青でした。そして目を閉じ、呼吸は苦しそうに荒れていました。ミロアの姿を発見した時、始めはもう死んでしまっているのかと思いました。でも、まだ生きています。
「パティンー!ルイルーー!キオーーー!」
シノンはありったけの声を出して三人を呼びました。パティンは誰かに呼ばれたような気がして、顔をゆっくりと上げました。
「どうしたんだよ、パティン?」
「うん、ちょっと…」

パティンは必死に考えました。自分を呼んだ声のことを。かすかに聞こえたような叫び声は空耳だったのか、それとも誰かがどこかで助けを求めているのか。そして結論が出ました。
「僕、ちょっと行ってくる。」

パティンは走り出しました。
「おい、待てよ。パティン!」

ルイルに呼ばれても彼は振り返らずにひたすら走りました。でもすぐにルイルに追いつかれました。パティンの脚ではルイルどころか、キオにだってかないません。
「待てったら!一体どこへ行くんだよ?」

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