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第六章「野犬の長」【7】

彼女の腰はすっかり曲がっていて、その上半身は地面とほぼ平行でした。彼女の体を支えているのは黒くて細い杖でした。全体的には小柄なこの老婆は、犬に向かってもう一度声をかけました。
「おやめと言ってるんだよ。そこをおどき、ジャージャ。」
ジャージャと呼ばれた犬は、そこでようやく後ろへ下がってキオを自由にしました。キオはゆっくりと上半身を起こしました。ジャージャにいっぱい舐められたからでしょうか、キオは顔中を変な臭いに包まれたように思って顔をしかめました。
「ジャージャのよだれはくさいからねぇ、後で顔を洗わないと臭いは消えないよ。」

そう言って老婆は開いている右目だけをぐにゃっと曲げました。きっと笑っているんだ、とキオは思いました。
「あんた、どこの誰だね?」
「僕…白森の村のキオ・マシュルです。」
「マシュル…ああ、ゴルの息子だね。」
「おばあちゃんは、僕のお父さんを知っているの?」
「私のことはホリシカと呼んでおくれ、おばあちゃんなんてとんでもない。まあいい…あんたのお父さんのことは知ってるよ。ここに墓がある者は家族のことまでみんな知っとるよ。あんたまさか、一人で来たのかね?」
「いいえ、お父さんといっしょに来たんだけど、僕一人になっちゃって…」
「そうかい、はぐれちまったのかい。じゃああんたの家の墓へ連れて行ってやるよ。ついておいで。」

見た目はちょっと不気味ですが、優しいおばあさんのようでした。外から見た印象とは違い、この墓地はかなり広いようです。おばあさんはゆっくりと歩いています。その傍らにぴったりとくっついて歩いているジャージャは、時折キオを振り返りました。食べられる心配はなくなりましたが、それでもキオはジャージャを少し怖いと思いました。キオはやはり古森でのことを思い出していました。あの野犬たちの中で一番大きかった犬、あの犬と目が合った時のことをキオは今でもはっきりと覚えています。ジャージャはきっとその野犬よりも大きいと思いました。ジャージャはどちらかといえばずんぐりとした体型をしています。丸い顔に太い足、大きな尻尾。体の毛はほとんど茶色で、目の周りと足だけが白色をしていました。
「あんた、犬が嫌いかね?」

ホリシカはキオに尋ねました。
「うん、森で食べられそうになったから。」
「森で?古森の野犬たちのことかい?」
「うん、僕とルイルとパティンが森で囲まれて、もう少しで食べられるところだったんだ。」
「ふん、あいつらは人を食ったりなどせんよ。」
「だって、今にも飛び掛ってきそうだったんだよ。」
「あんたたちが勝手にそう思ったんじゃないのかい?ほれ、さっきみたいに…」

さっき、ジャージャはキオにじゃれているだけでした。
「古森の野犬どもは元々人間に飼われていたのがほとんどさ。どういう事情かいっしょに暮らせなくなってあの森に住み着いたんだ。人間に優しくされた記憶が残っている犬は、みだりに人を襲ったりするもんじゃないよ。犬と人間は仲良しなのさ。」
キオは黙りました。白森の村で犬と仲良くしている人を見たことはありません。ですからホリシカの言葉に納得したわけではありませんが、返す言葉もないようでした。
「それにあいつらには賢い指導者がいるからねぇ。むざむざ人間を敵に回すような真似はしないのさ。」

指導者、と聞いてキオはすぐにぴんときました。
「あの大きな野犬のこと?」
「あんた、長に会ったのかね?」
「長?長っていう名前なの?」
「そう呼ばれてるのさ。長は大したもんだよ、他の野犬どもをまとめあげてねぇ。まるであんたの父親だね。」
「僕のお父さん?」
「ゴルには人の上に立つ力があるのさ。本人にはその気がないみたいだけどねぇ。」
キオはもっとその話を聞きたそうでした。
「おっと、ゴルのことに関してこれ以上は私の口からは言えないね。知りたければ本人から聞くんだね。」

少し残念でした。父親からそんな話を聞いたことはなく、聞いても話してくれるかどうかわかりませんでした。
「じゃあもっと長の話をして。名前はなんていうの?」

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コメント

はじめまして
ゎたしゎこの小説読んで
ちょっとだけ面白ぃなぁって思いました(^O^)
またね〜。

>やよいさんへ

コメントありがとうございました
これからも頑張って更新していきますので、よろしくお願いします♪

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