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第六章「野犬の長」【1】

収穫祭が終わり、わずかな休日を過ごした白森の村の人々は、徐々に農作業に取り掛かりました。来年の収穫のために、力を使い果たした土をよみがえらせることから始まります。カリスの実がなる木は土の養分が足りなくなると樹皮が白っぽくなります。村の名はそこから由来します。村人は枯れ葉と肥料を木々の根本に埋め、大地が力を取り戻すのを待つのです。ディスマン氏の大農園でも、大勢の村人たちがその作業に汗を流していました。その一角にサグ家の農園があります。マレアの父・デムと母・ミロア、妹のシノンが働いています。ミロアは、マレアがいなくなった後、病状が悪化して床に伏せる日が多くなりました。シノンはその小さな体でできる限りの手伝いをしています。運べるだけの枯れ葉をざるに入れ、木の根本まで持っていくのです。彼女は姉の分まで働こうとしていました。仕事をしている間は、彼女のおしゃべりも影を潜めています。そんな彼女が夢見る将来は、いつかマレアに会いにバドへ行くことです。さて、そんな中で困ったのは父親のデムです。彼は娘を送り出してからというもの、働く気力を失ってしまいました。午前中は何とか働きます。でも昼になると農園を抜け出し、どこかにいったまま戻ってきません。そのくせ、近所の者たちからの手伝いの申し出は断るのです。甘えるわけにはいかない、などと言って。その間、ミロアとシノンは二人で作業をしなければなりません。時にはシノンが一人で働いている時もあるのです。当然、作業は一行にはかどりません。夜になるとデムは家に帰ってすぐに寝てしまいます。娘をバドの人間に預け、お金をもらいました。デムは大切な娘を売ってしまったと後悔しています。病気の妻の薬を買うため、大金に目がくらんでしまったことが、サグ家に暗い影を落としていたのです。デムは村にただ一軒ある酒場“白森の酒樽”にいました。彼は仕事をする気がなくなるとこの店にやってきて、明るいうちからお酒を飲んでいます。夕方になるとシノンが彼を迎えに来て、それでも帰らないようなら、夜になってミロアが彼の所へ来るのです。彼女の体調が優れない時は、サグ家の近所の者が彼を荷車に載せて家まで運びます。妻のミロアにはマレアのお金で自分の薬を買っているという負い目もあり、あまり強く彼に言えません。彼を雇っているディスマン氏もそのことを心苦しく思っています。元々バドからの話を取り持ったのはディスマン氏自身です。しかしそれがまさかこのような事になるとは彼も思っていませんでした。何とか彼を立ち直らせなければと思いながら、いたずらに時だけが過ぎてゆくのでした。今日のデムはよく働いたほうでした。夕方近くまで妻と娘の三人で働き、それからいつもの酒場へ行きました。日がほとんど沈んで、辺りが闇に包まれようとしている頃、酒場で酔っ払っているデムのところへゴル・マシュルがやってきました。
「デムさん、あんたは今日もここで飲んだくれているのか?いいかげんまじめに働いたらどうなんだ。」
「今日はずいぶんと忙しかったなぁ。ミロアとシノンだけじゃいつまでたっても終わらないから、俺が手助けしてやったんだよ。おかげでかなりはかどった。いやあ、疲れたよ。くたくただ。」
「ミロアやシノンはもっとたくさん働いて、あんたよりもずっと疲れているはずだ。村のみんなもそうだ、きちんと自分の仕事をしてからここに酒を飲みに来てるんだ。それなのにあんたは仕事を二人に任せて遊び呆けてしまっている。このことをマレアが知ったら悲しむぞ。」
ゴルの話を聞いているのかいないのか、デムは酔った声で別の話をし始めました。
「ゴルさん、あんた知ってるかい?カロエン様の所のお姫様がリグ・バーグへ嫁いでいかれるそうだ。だけどそのお姫様はまだすごく幼いんだとさ。きっと好きでもない男と結婚させられるんだろう、かわいそうに。まるでマレアのようだ、行きたくもないところに養女に出されて…」
「デムさん、その話はやめておけ。どうしようもないんだから。」
「そうなんだよ、取り返しのつかないことをしてしまったんだよ。私はとんでもない父親だ。」
「もう帰ろう、二人が家で待ってるんだから。」

デムはゆっくりと立ち上がりました。今日はおとなしく帰るようです。夜空には半分の月と、大きな星が四つ輝いています。
「ゴルさん、キオはどうなんだい?収穫祭にも顔を出さなかったようだね。パティンやルイルもいなくって、シノンは寂しがっていたよ。」
「うむ。まったく困った奴だよ。祭りの時も連れ出そうとしたんだが、ベッドにもぐりこんで出ようとしなかったんだ。シアは無理に出さないほうがいいと言って甘やかすし、どうにもならん。」
「すまなかったねぇ。それだって元はといえばマレアのことが原因だ。」

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