第六章「野犬の長」【3】
「キオの家の農園、広いもんね。」
「終わったらどうする?何して遊ぶ?」
「僕はお父さんと白森の丘へ行くことになったんだ。」
「白森の丘?あんなところ行ったって何もないよ。何しに行くんだよ?」
「わからないよ。お父さんは行けばわかるって言うだけだし。」
「あそこってお墓があるんでしょ?怖いおばあさんが出てくるって噂だし。」
「パティンは何でも怖がってるだろ。」
「で、でもそこのおばあさんは本当に怖いって…」
「誰が言ってたんだよ?」
「シノンが…」
「何でシノンの言うこと信じてんだよ、あいつはまだ子供だぜ?」
僕らも子供なのに、とは言えずにパティンは口をつぐみました。
「ルイルの家はどこかに行く予定はないの?」
キオが話題を変えました。
「うちの父さんは仕事以外は家の中でごろごろしてるだけだからな。キオの父さんみたいにどこかに連れて行ってくれたことなんて一度もないよ。」
「白森の丘なんて、本当は僕も行きたくないんだけどね。それで、パティンは何か予定あるの?」
「あ、僕はちょっと…」
「ちょっと?何だよ、言ってみろよ。」
「手伝いを…」
「声が小さくて聞こえないよ、もっとはっきりしゃべれよ!」
「怒らないでよ、…シノンの農園の手伝いをするんだ。」
「シノンの?」
「パティン、何でお前がシノンの家の手伝いをするんだ?」
「シノンに頼まれたんだよ。」
「頼まれたんじゃなくて、命令されたんだろ?」
ルイルは意地悪そうに笑いました。
「そ、そんなのどっちでもいいだろ。シノンの家の農園、あまり作業が進んでないみたいだから。」
「シノンの父さんが仕事もしないで昼間っから酒飲んでるからだろ、あんなのほっとけばいいんだ。」
「シノンのお母さんの病気もよくならないもんな。じゃあ僕も白森の丘から帰ってきたらパティンといっしょにシノンを手伝うよ。」
「やれやれ、何だってこんなお人よしの連中を友達に持ったんだろう、俺は。」
「ルイルもいっしょにやろうよ、三人で手伝えばきっと早く終わるよ!」
「冗談じゃないよ、自分の家の手伝いだっていやなのに、どうしてよその家の手伝いなんかしなくちゃいけないんだよ!」
「いいよ、無理して手伝いに来なくても。僕一人でやるから。」
三人の間に沈黙が広がり、ルイルはいたたまれなくて、二人の元から走り去りました。パティンは黙ってとぼとぼと歩き出し、キオは彼を慰めながら後を追いました。
それは収穫祭当日のことでした。祭りを楽しみにしている村人たちは朝からそわそわと落ち着きがありません。祭りの準備が始まるのは午後からだというのに、気の早い何人かはもう会場の広場に集まっていました。祭りは村の広場で催されます。村の広場は村役場の真ん前にあります。普段その場所は村人たちの語らいの場であったり、子供たちの遊び場だったりします。ちなみに、白森の村役場は小さな一軒家です。そこに村長の家族が住んでいるのです。村には役人という者はおらず、役場の業務は村長の家族が全てまかなっています。村長とその妻、彼の三人の娘が村役場で働いています。娘たちは三人とも結婚していて、村長の孫は合わせて六人います。祭りの準備も村長一家が仕切ることになっています。人手を集め、必要な物を運ばせ、飾り付けの指示を出すのです。村人たちは祭りを順調に始めるため、彼らの指示に素直に従います。お昼が過ぎた頃には村の男たちが集まって力仕事を始めました。テントを広げたり、大きなテーブルを運んだりしています。村の娘たちはディスマン氏の家に集まりました。ディスマン氏は村一番の大金持ちです。彼は今日の祭りのために、マセノアの各地からたくさんの色々な食材を取り寄せていました。村の女たちはディスマン氏の家の大きな台所を借りて、祭りで出される食事の用意を始めました。
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