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第六章「野犬の長」【2】

「そんなことはない、あんたが気にする必要は無いんだ。あれはキオが勝手にやったことだ。言い出しっぺもキオのようだし、全部あいつが悪いんだよ。」

ゴルはデムを家まで送り、それから家に帰りました。彼を真っ先に出迎えたのはキオでした。
「お父さん、お帰りなさい!マレアのお父さん、大丈夫だった?」
ゴルはキオの頭をなでました。
「心配ない、ちゃんと家に帰ったよ。」

台所からシアが出てきました。
「母さん、腹がぺこぺこだ。食事にしよう。」

マシュル家の食事が始まりました。シアが作った料理をルドもミアもおいしそうに食べています。キオも楽しそうです。ゴルとシア、ルドには明日も朝早くから農園での仕事があります。ミアとキオも学校に行く前に手伝いをしなければならず、早めに床に就きました。ゴルとシアは二人で話をしています。
「母さん、キオのことだが、このままではよくないんじゃないか?」
「わかってるわ。でもあれだけ強いショックを受けたんですもの、そんなに簡単に元のようにはならないわよ。」
「かといってほっておく訳にはいかないだろ?俺はキオに強くなってもらいたいんだ。」
「それは私も同じよ。でもどうしたらいいのか正直わからないのよ。」
「俺に考えがある。白森の丘に連れて行くよ。」
「ドクのところへ?でも今連れて行っても効果があるとは思えないわ。それどころか余計に負担をかけるだけじゃないかしら?」
「俺はあいつを信じるよ。キオならきっとわかってくれるはずだ。農園の仕事が一段落ついたら、二人で行ってくるよ。」
キオはベッドでぐっすりと眠っています。一日が過ぎるたびに、少年の体は少しずつ大人の体へと成長していきます。でも彼の心は、あの日に受けた傷によって成長を妨げられているのです。マレアを追って古森へ飛び込んだあの日の出来事は、彼とその友人たちの勇気に鍵をかけてしまったのです。

       

白森の村の子供たちが通う小学校は、村役場の南側に位置します。この学校はディスマン氏の寄付によって五年前に建て直されました。ですので、この学校は”敬愛するディスマン氏の恩恵を受けた白森の学校”という、少し長い名前になっています。子供たちはここで十四歳になるまで学びます。それ以上の高い教育を希望する者は“偉大なるアーロイ”市にある聖ヴォゼーロ学校へ通うことになります。そのような者は白森の村にはほとんどいません。“白森の学校”で生活に必要な知識はほとんど身についてしまうからです。村に一つだけのこの学校に来れば、村の全ての子供たちに会うことができます。もちろん、あの子達にも。キオとルイル、パティンの三人は同じ教室で授業を受けています。勉強はパティンが一番成績がよく、二番目がキオで、ルイルはあまり授業に集中できていません。パティンはもう少し勉強の時間を増やせば、聖ヴォゼーロの勉強にもついていける学力が身につくといわれています。彼が勉強に集中した時、そのひらめきは周囲を驚かせます。学校で誰も解けなかった数学の問題を、パティンは事も無げに解き明かしてしまったことがあります。そんな事もあって、学校の先生や彼の両親も期待をしていますが、パティンにしてみればキオやルイルといっしょに遊んでいるほうが楽しいのです。そして運動はルイルのもの。キオは彼についてゆくのがやっと、パティンは足元にも及びません。学校の運動試験で彼は十三、四歳の年長者たちにも引けをとらない成績を残しました。特に秀でているのはその素早さです。かけっこをすれば同い年の子には敵はなく、木登りでは十三歳の子よりも速くてっぺんに到達しました。そんなルイルは将来、騎士になるのが夢です。もちろん、運動能力だけで騎士になれるというわけではありませんが、彼は自分の能力を最大限に生かせるのはそこしかないと思っています。三人を比べる時、いつも真ん中にいるのはキオです。特に飛び抜けた所を見せることもなく、勉強も運動もそれなりにこなすだけです。そこまでしか頑張れないのです。彼はルイルやパティンが活躍するところを見ているのが好きなのです。それが彼のいい所であり、欠点でもありました。でも、三人が何かを始める時、口火を切るのはキオの役目です。あの日、マレアを助けようと言い出したのはキオでした。決めるのはいつもキオなのです。ただ、あの事件は彼らにとっての大きな失敗であり、彼らの心に深く大きな傷を残しました。彼ら自身にその自覚がなくても、その傷によって彼らは苦しんでいるのです。それでも彼らはこれまでと代わらず仲良しで、今日も学校が終わっていっしょに帰っているところです。
「俺の家は明日ぐらいに終わりそうだけど、キオのところもそうだろ?」
「うちは明後日までかかりそうだよ。お父さん大変そうだし。」

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