第五章「嘆きの朝」【26】
アクベイに続いてピルセンも答えました。
「私もバドへ向かいます。マレアを無事に連れて行くためには一人でも仲間が多いほうがいいでしょうから。」
「お前たちが一番まともだよ。いいだろう…これで決まりだな。」
彼らは馬車に積んであった財宝を一人ずつ均等に分配しました。そしてまずヤスブとレゴが出発することになりました。
「マスグ、マレアのことをくれぐれも頼んだぞ。」
「お任せを。」
「エトン、フィレントのこと、あまり無茶はせんようにな。」
「御意。」
「トーレン、ノドモス様がもし目を覚まされたら…すまなかったと伝えてくれ。」
「ヤスブ様のお気持ちはノドモス様もわかっていることでしょう。しかしわかりました、必ず伝えます。」
そして二人はイオニーネを追って北北西の街、ノリッド・バーグを目指して出発しました。二人の姿が小さくなり、続いてトーレンたち三人が出発しました。マスグはフィレントが乗っていた馬に乗ることにしました。
「しかし我々がこんな風にばらばらになってしまうとは考えてもみなかった。俺は大事なローガル・ロガまで失った。何だか体が妙に軽くて落ち着かんよ。」
「マスグ様、それでもこうして命が助かっただけでもよかったではありませぬか。私は剣を折られました。まだまだ修行が足りません。」
「私も愛用していた弓を手放しましたが、惜しいとは思いません。今はただ生きていることを喜んでいます。」
「お前たちは前向きなのだな。よし、先を急ごう。きっと泣いておるぞ、スロンゼルがな。」
そのころエトンとユレイスはまずトーレンといっしょにノドモスを乗せてリアライ・バーグの東の外れにある村へ運びました。ここでトーレンは小さな空き家を借りました。そこにノドモスを寝かせ、エトンとユレイスはトーレンと別れました。二人はリアライ・バーグを目指しました。フィレントがそこにいるかどうかはわかりません。しかしワシュウはそこへ連れて行かれました。ですからそこへ行けば何か手がかりがつかめるかもしれないのです。
「その前にまずユレイスの馬を調達せねばならんな。ドウィほどの賢い馬は簡単には見つからんだろうが。」
「本当にあいつはよく走ってくれました。今ごろは争いのないところで自由に暮らしているでしょう。」
ユレイスはエトンの馬の横を歩きながら、ふと寂しげな顔をしました。
「おい、ユレイス、あれを見ろ。」
そういわれてエトンの指差す方向を見ると、平原にぽつんと一頭、馬がこちらを見ていました。
「ドウィ!」
ユレイスは思わず彼の名を叫び、右手を高々と上げました。途端にその馬はユレイスたちのほうへ走り出し、あっという間に彼らの元へ到着しました。まさしくドウィでした。ユレイスはドウィの首筋をなでてやりました。エトンは驚きの表情を隠せません。
「こいつきっとお前に会いたくなって探してたんだぜ。これはよい兆しかもしれんな。なあ、ユレイス?」
ユレイスにも確かに希望が見えた気がしました。それぞれの道を選んだ仲間たちがどのような結末を迎えるのかは誰にもわかりません。しかしどれだけの時間がたち、どこへ行こうとも、いつか全員と再会できる、そんな希望をドウィから感じるユレイスでした。
白森の村は小国マセノアの南西の端、リグ・バーグとの国境の近くにある小さな村です。白森の村では特産物のカリスの実の収穫がようやく終わったところです。今年もできのよい実がたくさん取れて、村はとても活気付いています。今日はその喜びをみんなで分かち合う収穫祭です。昼過ぎから準備が行われ、夕方から祭りが始まりました。会場となる村の広場にはたくさんの松明が灯され、まるで昼間のような明るさです。テーブルにはたくさんの料理が並べられています。村人があまり見たことのない色とりどりの野菜や果物、生きている姿を見たことはあっても食べることなどめったにない動物の肉などが大きな皿に山のように盛られています。これらの食材は全て村の名士ディスマン氏が遠くの村や町から取り寄せてくれたものなのです。みんなはディスマン氏に感謝しつつ料理をほおばり舌鼓を打ちました。大きなコップに酒が注がれ、大人たちはそれを片手に騒ぎ、そして唄っています。子供たちの姿も大勢見受けられます。収穫祭のこの日だけは、家族の手伝いをした子供たちにも夜更かしが許されているのです。子供たちは走り回ったり、母親たちと踊ったりしています。でも、なぜかここにあの三人の姿がありません。キオとパティン、そしてルイルはこの祭りに来ていないようです。シノンは別の友達と遊んでいます。でも彼女はどこか寂しげです。祭りはさらに続きます。この祭りが終わってしばらくすると、来年の収穫のための仕事が始まるのです。今日は一年の疲れを癒すための大切な祭りです。食べ物とお酒がなくなるまで、祭りはいつまでも続きます。
― 第五章 完 ―
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