第五章「嘆きの朝」【24】
「彼はバドの惨状に同情してくれた。話を終えて私はすっきりとした気持ちになった。ノドモス様はこのようにおっしゃった。
<お前さんの話を最後まで聞いてやった礼に、私も旅に連れて行ってくれ。隠居をしてみたものの退屈でしょうがない。残り少ない人生を終える前にもう一度冒険がしたいんだ。なに、邪魔はせんよ。金もいらん。そうだ、馬車乗りをしてやろうじゃないか…>
私は彼がいっしょに来てくれるなら、こんなに心強いことはないと思った。素性を隠したのは彼の希望だった。スウェイヴ将軍して扱われるのを彼は嫌ったのだ。彼の存在は旅の中で私を何度も救ってくれた。ノドモス様には無事に故郷のリーガスへ帰ってもらいたいと思っていた。しかし、それがこんな事になるなんて思ってもみなかった。私はノドモス様とイオニーネの人生を狂わせてしまった。いや、二人だけではないな。マレアもそうだ、私はあの子を家族から引き離してしまった。バドのことなど、あの子には何の関係もないのに。」
「マレアのことはフェリノアやリグ・バーグだって狙っていたんです。我々が白森の村に行かなかったとしても、いずれはどちらかが我々と同じことをしたでしょう。」
それはエトンの言葉でした。
「それに、責任がどうのという話なら私にもあります。私は…フィレントがおかしくなってしまうことを前から知っていました。」
マスグが驚きました。
「何だと?お前はあいつがあんな風になるのを知っておきながら黙っていたというのか?」
「私が見たときは今日のような恐ろしい姿ではありませんでした。同じだったのは体中から怒りを放っていたことだけです。ですからその時は軽い発作のようなものだと思ったのです。」
エトンは“森の乱暴者”のアジトで起こったことを全て話しました。フィレントがフェリノアの紋章を見て我を忘れたこと、父親からフェリノアを憎むべき敵だと教え込まれたこと、もしもの時は自分を殺してでも止めてくれと言ったことを。
「しかし、私はあいつを止めることができませんでした。見守ってやると約束したのに。」
「フィレントの父親もそうだった。」
ヤスブが話し始めました。
「フィレンソン様もまた、フェリノアの人間、特に王族に対しては異常なほどの戦いぶりだったと聞く。フィレントは幼い頃から彼の精神を叩き込まれたのだろう。」
「ではひょっとしたら、あの遊牧民たちの中にフェリノ家の人間がいたのかもしれませんね。」
みんながトーレンを見ました。
「今思えば、ワシュウのあの言い訳はやけに苦しいものだった。歴戦の勇士である彼の作戦にしてはあまりにもお粗末な内容だった。おそらく総指揮官は王族の誰かで、ワシュウはその責任を自らかぶったのではないでしょうか。」
「それを知っていたら、フィレントにあのままやらせてもよかったかもな。」
アクベイが冗談めかして言いました。
「やめておけ、もしそんな事になっていたらフェリノアにいい口実を与えるだけだ。バドはつぶされてしまう。」
そして言葉が途切れました。
「みんな、そろそろ休もう。明日発つぞ。」
彼らはめいめいに体を横たえました。それでも彼らはなかなか寝付けず、夜空を眺めたり、寝返りを打ったりしています。ようやくゆっくりと寝られる夜を手に入れたにもかかわらず、彼らはそれを満喫することができません。知らぬ間に地平線に光が走り、空はおぼろげに明るくなっていきました。月や星たちが徐々に姿を隠していきます。空がほとんど白んだ頃、一番初めに別れを切り出したのはレゴでした。彼らにとって忘れられない朝が始まりました。
「馬鹿を言うな、レゴ。イオニーネのことはあきらめるんだ。今から追っかけたところでなんになる?奴らにフェリノアに入られたら助けようがないんだぞ。」
「マスグ様、私は一晩考えました。マスグ様の言うとおり、あきらめようとしました。しかし私は何もしていません。彼女を助けるための努力を何一つしていません。これではあきらめきれないのです。たとえ無謀なことだとわかっていても、私はイオニーネを取り戻すためにフェリノア兵たちの後を追います。幸いなことにトーレン様のおかげで奴らの向かった方角はわかっております。私はこの人生を彼女に捧げると約束したのです。」
「人生を捧げる?そんなことをイオニーネが望んでいると思うのか?彼女に一目会うことも叶わずに死んでしまうのかもしれんのだぞ。」
「このままバドへ戻っても、私には何の生きがいも見出すことができないでしょう。救いのない後悔にさいなまれて一生を終えることになるでしょう。それでは私の人生は悲しすぎるのです。どうか私のわがままをお許しください、マスグ様。」
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