第五章「嘆きの朝」【23】
リグ・バーグ兵によって焼かれたフェリノア兵たちの死臭で鼻がおかしくなってしまったようでした。真っ暗な大地に一つだけ焚き火の明かりがぽつんと浮かび上がっています。今この地にいるのはヤスブたちだけです。よく見るとアクベイの姿がありません。彼は高台に上り、ニダロの様子を見に行きました。そこにニダロはいませんでした。馬もいなくなっており、彼の弓も矢もありません。アクベイはヤスブたちの元へ戻り、そのことを報告しました。
「ヤスブ様、ニダロを逃がしたのは私です。家族の元へ帰れといったのです。」
ヤスブは穏やかに笑みをたたえています。
「気にするな、アクベイ。お前がしたことは正しかった。平和維持軍の仲裁がなかったら我々はワシュウによって全滅させられていただろう。ニダロも二度とティネノや子供たちに会うことはできなくなっていたはずだ。無事にバドへ帰り着いてくれればいい。」
「ヤスブ様の言う通りだ。それに今頃はスロンゼルたちと合流しているかもしれん。私たちは奇跡的に助かった。全てはいい結果につながったのだ。」
トーレンの言葉に激昂したのはレゴです。
「全ていい結果ですって?そんな馬鹿な、トーレン様、あなたは我々が疑問に思っていることにまだ何も答えてくれていません。どうか教えてください、連れ去られた赤毛の娘とはマレアですか、それとも…」
「イオニーネだ。最後に会った彼女の髪の色を覚えているだろう?彼女の髪は赤かった。奴らは彼女を赤毛の娘だと思い込んだのだ。」
レゴはトーレンに掴みかかりました。
「トーレン様はそれで何もしなかったのですか?!間違いだとその場で言ってくれればよかったのに、ただ見ていただけだなんて!」
「私には見ているほかなかったのだ。出て行くこともできず、ましてや間違いだったなど言えなかった。言えば全てが台無しになる。許せなければ私を殴れ。いや、殺してくれてもかまわぬ。」
レゴとトーレンの間にヤスブが割って入りました。マスグとピルセンがレゴを後ろに下がらせました。怒りで我を見失っているレゴを除いて、仲間たちはなんとなくわかりかけてきました。イオニーネがある意図を持って自分の髪を赤く染めたのだということを。
「全ては私の計画だ。トーレンには何の落ち度も無い。責めるなら私を責めてくれ。」
レゴにはまだ真実がわかってないようでした。ヤスブはアクベイやユレイスと目を合わせ、それから自分の計画について全てを語り始めました。マスグとピルセンに体を押さえられ、レゴはヤスブの話を震えながら聞いています。イオニーネが旅に同行した意味をヤスブは語り続けました。今回のようなことが起きると踏んでの同行だったことをヤスブは独り言のように視線を下ろして語り続けました。レゴの目には涙があふれ、今度は立っていられなくなりました。ピルセンに支えられ、ゆっくりと地面に膝をつきました。肩を震わせて声を押し殺しているレゴの姿を、ヤスブはまともに見ることができませんでした。
「俺は何も気づくことができなかった。イオニーネの事をずっと見てきたはずだったのに。ひどい、ひどい…ひどい。」
ユレイスがヤスブを見ました。
「ノドモスは?なぜ彼はその場にいたのでしょう。ヤスブ様の計画によれば、そこにはノドモスはいるべきではなかったと思うのですが。」
「私も驚いている。ノドモス様にはマレアとバドへ行ってもらい、そのままリーガスへ帰っていただく予定だった。どうしてそこに残っていたのか…」
ノドモスの横に座っているトーレンが話し始めました。
「私があの場に着いたとき、ノドモスはワシュウと向かい合っていました。ですから始めからそこに残っていたのか、それとも途中で引き返してきたのかはわかりません。私は離れたところから様子を伺い、ノドモスがスウェイヴ将軍だと知りました。信じられませんでした。スウェイヴ将軍がバドの我々のために危険を冒して旅をしてくれていたなんて。」
「私はノドモス様に相談を持ちかけた。この旅に出ることに私は不安だった。周りの誰もが反対し、行くべきではないと諭されていたからだ。国内に私を応援してくれるものはいないと落胆した私はリーガスのノドモス様を訪ねた。二度ほどしか会った事はなかったが、彼は私の話をまじめに聞いてくれた。私は食事も忘れて話をした。」
ヤスブは眠っているノドモスを見ました。
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