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第五章「嘆きの朝」【16】

その軍隊がリグ・バーグのものであるということは誰の目にも明らかでした。リグ・バーグの紋章が入った鎧や盾、中には国旗を掲げている者もいます。先ほど聞いた太鼓は人の背丈ほどもあり、それが荷台に乗せられ馬で牽かれていました。角笛も格段と大きなものでした。フェリノアの北東部に生息するという山羊の一種でしょうか。その山羊は熊ほどの大きさがあるといわれています。リグ・バーグ軍は十列ほどに並んでヤスブたちのほうへ進んできました。やがて列の半分から左右に広がり、そしてヤスブたちと遊牧民たちを取り囲んでしまいました。その後も続々とリグ・バーグの兵士たちがこの戦場に列を成してやってきました。ヤスブもワシュウもそれを黙って見ているだけでした。そしてようやくリグ・バーグ軍の行進が終わりました。バドとフェリノアの軍を輪になって封じ込めた集団と、その周りに五列に並んだ集団が十六隊配置されています。ヤスブたちを囲む円の集団の中から、兵士が一人進み出ました。リグ・バーグの兵隊は皆緑色の鎧を着ていますが、その兵士はそれよりもっと深い緑をした鎧を身に着けていました。
「私の名はネルツァカ・オエである。このバーグ地方南方平和維持軍の総司令官である。兵の数は四千八百である。お前たちに勝ち目は無い、今すぐ剣を鞘に収めよ!」
ワシュウはすぐに味方の兵士たちに命令しました。
「言われた通りにしろ、剣を収めるのだ。そしてむやみに動く出ないぞ!」
ワシュウの命令に従い、フェリノア兵たちは次々に剣を鞘に収めていきました。次にワシュウは自分の隣にいた兵士にこっそりと耳打ちしました。
「ラゾイに送れ。オセアスを馬から下ろせ。他の兵たちに紛れさせよ。」
ワシュウの伝言を受けた兵士は自分の隣にいた兵士に今の言葉を伝えました。そして伝言を受けた兵士は隣の兵士に伝言を伝えました。ワシュウは右腕のケガの痛みに耐えながら、伝言がラゾイに上手く届くように願いました。伝言は素早く、そして正確にラゾイに伝えられました。ラゾイはすぐにオセアスに馬から下りるように告げました。リグ・バーグ兵の数に圧倒されていたオセアスは素直に従いました。オセアスは身を低くし、ゆっくりと馬から下りました。そして左足を引きずりながら、兵士たちの中に入っていきました。ラゾイはオセアスに付き添いながら周囲を警戒しました。フェリノア軍は再び危機に陥ったのです。しかも今度は隊列を整える云々では対処できません。オセアスを守りきれるかどうか、ラゾイにも自信がありませんでした。

             

ネルツァカは次にヤスブたちを一箇所に集めました。ネルツァカは彼らを見て驚きました。そこには兵士が九人いるだけでした。たったこれだけで五百人の敵を相手にしてきたのかと思うと、空恐ろしくなりました。マスグはアクベイに小声で尋ねました。
「ニダロはどうした?」
「恐らくまだ高台に潜んでいると思われます。」
「そうか、そのほうがいいだろう。」
マスグはフィレントの様子を見ました。フィレントは馬から落ちないようにしているのがやっとでした。彼はとても苦しそうな顔をしています。エゾンモールはエトンが何とか彼の鞘に収めました。トーレンは黙ったままです。ネルツァカは各陣営の指揮官に前に出るように言いました。ヤスブとワシュウがネルツァカの前に出ました。
「二人とも、私の質問に正直に答えてください。よろしいですね?」

二人は頷きました。
「いいでしょう、では名前をお聞かせ願います。」
「バド国、ヤスブ・ワイゼルン。」
「フェリノア国、クオネン・オド・ワシュウ。」

ワシュウの名を聞いた瞬間、リグ・バーグ軍がざわめきました。その名はリグ・バーグにも轟いていたのです。
「信じられません。大戦の英雄であるあなたにお会いできるなんて。」

ネルツァカは感激しているようでした。
「遠い昔の話だ。いまや引退間際の老兵よ。」
「何をおっしゃいます、ワシュウ様。お怪我の具合はいかがですか?」
「大したことは無い。話を続けてくれ。」
「わかりました。ではまず我々の話からいたしましょう。わかっておられるかもしれませんが、われわれは偶然ここにやって来たわけではありません。五百人の遊牧民がわがリグ・バーグを練り歩き、民を不安がらせているという情報を聞きつけました。我々はそのような事態の際に出動し、国民の不安を取り除くことを生業としています。あらゆる情報を集めることに時間を費やしましたが、ようやくこの騒動の収集に向けて動き出すことができました。我々平和維持軍の行動は全てリグ・バーグの法律で保障されています。したがって我々への反抗は本国に対してのそれと同じとみなされます。ご理解いただけますね?」

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