第五章「嘆きの朝」【14】
ふと気がつくと、馬の足音が大きく聞こえていました。始めは周りの木々に自分の馬の足音が響いているだけだと思いました。しかしそうではありませんでした。その音はとても短い間隔で、速い拍子を取っていました。ゆっくりと走っている彼の馬からそんな音が出るとは考えられません。ノドモスが戻ってきてくれたのだとスロンゼルは思いました。スロンゼルは振り返り、ノドモスを笑顔で迎えました。しかしそこにいたのはノドモスではなく、見知らぬ男でした。しかもその男は遊牧民の服装をしていたのです。スロンゼルは驚きました。その驚きで心臓が縮まったような気がしました。スロンゼルは馬の速度を上げました。マレアを落とさないように気をつけながらも必死で馬を走らせました。しかし、後ろの男はものすごい速さで迫ってきます。とうてい逃げ切れるものではありませんでした。遊牧民の男はスロンゼルの前に出て止まりました。この男はラゾイの手下、サウンです。彼はラゾイの指示でこの道を真っすぐ走ってきたのでした。
「おい、お前はどこから来た?」
「わ、私は近くの村から来たのでございます。」
「この近くに村など無いのだがな。それでは、お前は今からどこへ行くのだ?」
「は、はい…近くの村へ行くのでございます。」
「ふざけるな、お前はあのバドの連中の仲間であろう?」
「め、滅相もございません。私は本当にただの村人でございます。」
「強情な奴だな。おい、後ろの荷物は何だ?」
サウンがマレアの入っている麻袋を指差しました。
「こ、これは…作物でございます。私はこれを近くの村へ持っていって売るつもりなのです。」
「そうかそうか。よし、中身を見せてみろ。」
「え?!いや、これは売り物ですので、中は見せられません。」
「中を見て気に入れば俺が買ってやる。そうすればお前もこのまま帰ることができるのだ、いい話だろう?…いいから見せろ!」
サウンはスロンゼルの右側に回りこみ、麻袋に手をかけようとしました。スロンゼルは状態をひねらせ麻袋の上に覆いかぶさりました。
「だめです、触らないで!」
サウンは短刀をスロンゼルの目の前にかざしました。
「いい加減にしろ、世話が焼ける。死にたくなければそこをどけ、これ以上お前の相手などしておれんぞ!」
「ああ、お助けを…トーレン様…」
スロンゼルは目を閉じました。彼は暗闇の中でどさっと何かが落ちる音を耳にしました。そして、彼は静寂に包まれました。いつまでたっても遊牧民の男は何もしてきません。それどころか、押し黙ったままです。スロンゼルはそっと目を開けました。目の前には馬が一頭ぽつんと立っているだけで、乗っていた男はいませんでした。よく見ると、その男は馬の足元に倒れていました。彼は既に死んでいました。彼の眉間には矢が一本刺さっていました。スロンゼルは辺りを見回しました。この矢を撃ったのはニダロかアクベイだと思ったからです。しかし辺りには誰もいません。一体誰が助けてくれたのか、スロンゼルは不思議に思いました。彼は麻袋の口を開け、マレアの様子をうかがいました。彼女は死んだように眠ったままです。そして再び袋の口を閉じた彼には、少し元気が戻ってきました。
「もう少しで死ぬところだったが、何かの奇跡が起きて助かったのだ。きっとマレアを連れている私を神様が助けてくださったのかもしれない。私を救えばマレアが無事にバドへいける、そうなればバドが救われる。その私への褒美を先に与えてくださったのだ、きっと。」
スロンゼルは神に深く感謝しました。顔の前で手を合わせ、人差し指の先にそっと額を押し当て、静かに目を閉じて祈りを捧げました。この先も自分とマレアに神のご加護を、と心の中でつぶやき、彼は目を開けながら顔を上げました。彼は周りを取り囲まれていました。馬に乗った男たちが五人、いや十人はいました。スロンゼルには彼らが何者なのか、すぐにぴんと来ました。
「遊牧民の次は盗賊か、神様などいないのかもしれない。」
その中の一人が一歩進み出てきてスロンゼルに声をかけました。
「よう、ひさしぶりだな。」
その男の顔を、スロンゼルはすぐには思い出せませんでした。
「どうした、まさか俺のことを忘れちまったんじゃないだろうな?」
男はにやりと笑いました。
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