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第五章「嘆きの朝」【9】

レゴはいやな予感がしました。自分が予想もしていないようなことが起きている気がしてなりませんでした。逆にトーレンはほっとしていました。アクベイもレゴも馬車の元へ近づかせるわけにはいかなかったからです。二人は本当の計画を知りません。ましてやイオニーネに好意を寄せているレゴノートンには知られてはなりません。もしこの事がばれたら、必ずやレゴはこの計画を阻止しようとするに決まっています。だからトーレンが馬車のところへ向かったのです。ヤスブの筋書き通りに事が運んでいるなら、イオニーネが馬車に残っているはずです。馬車に近づいたとき、トーレンは驚いて馬を止めました。馬車の周りに人がいるのです。馬に乗った老人がいます。トーレンにはそれがノドモスだとすぐにわかりました。馬車から少し離れたところには遊牧民の騎馬隊がいます。彼らはここに来ていたのです。このまま遊牧民がイオニーネをマレアだと思い込んで連れて行くなら、今回の計画は成功です。
「どうしてノドモスがいるんだ?」
彼は思わず口にしました。彼は急いで馬を岩陰に連れて行き、自分は歩いて馬車の近くへと向かいました。遊牧民たちに気づかれぬように、それでもできるだけ現場の近くまでいけるように細心の注意を払いながら歩を進めました。ノドモスの元へ遊牧民が一人近づいていきます。その遊牧民もまた老人でした。トーレンはかなり馬車の近くへ行くことができました。遊牧民の老兵が話し出しました。かすかにですが、それはトーレンにも聞き取ることができます。
「やはりスウェイヴか!みすぼらしい身なりをしているが、貴公はノドモス・スウェイヴ将軍に相違ないな?」
「久しぶりだな、ワシュウ大元帥殿。こんな所で再会できるとは、まさに奇遇であるな.」
「一体ここで何をしておるのだ?」
「引退してぶらぶらしておるところを誘われて、今はしがない馬車使いよ。大元帥こそ、何をしに来られた?そんな格好をして徒党を組んで、仮装行列でもあるまい。」
「おうよ、私ものんびりと隠居生活を送るつもりであったが、子守役を命ぜられてな、これがなかなか骨が折れるわ。」
「それは気の毒なことだ。しかしここにはお前さんがお守りをする子供はおらんよ。さっさと戻られてはいかがかな?」
「そういうわけにもいかんのだ。先ほどお主は娘に触るなと言っておったが、その馬車の中に知り合いでもおるのか?」
「私が本当の娘のように可愛がっとる娘がおる。お前さんの好きにはさせん。」
「それでは、お主の娘とやらに会わせてもらおう。私が探している娘かもしれんのでな。」
「好きにはさせん、と言ったはずだ。戻れ。」
「用件が済んだら戻るわ。」
「聞いたはずだ、娘に触るなと。もう忘れたか?」
「わからんのか、引くのはお主のほうだ。私が合図をすれば後ろにいる百三十騎の騎馬兵が一斉にかかってくるぞ。命が惜しくないのか?」
「もう十分に生きたよ。今私が守らねばならんのは自分の命ではなく、この娘だ。」

ワシュウは大声で笑いました。
「それでこそスウェイヴ将軍だ。勇猛果敢なお主が率いるリーガス軍にはずいぶんと苦しめられたものだ。負傷した兵を見捨てずに最後まで戦場に残っていたあの姿を思い出したぞ。おお、おお…くたびれたこの体に力がみなぎる様だ。スウェイヴよ、お互いに歳はとったが、大戦でなしえなかった決着を今こそ付けようではないか!」

                

「まるで子供の約束だ。」
自嘲気味につぶやくフィレントはとても惨めでした。
「ずっといっしょにいるって言ったのに、彼女はバドへ行き、僕は残った。ヤスブ様に僕がマレアを連れて行くってどうして言えなかったんだ?」
フィレントは勇気の足りなかった自分を恥じていました。
「マレアは今頃怒っているんだろうな、フィレントの嘘つきって。ああ、このままバドへ戻ってもマレアに会わせる顔がない。」
意識を取り戻したかと思うと、ふっと記憶が途切れました。今の彼はその繰り返しです。
「そうか、その前に僕は死ぬんだ。」
持ち主がこんな状態でも、大剣エゾンモールは勝手に動き回り、群がる敵を振り払っています。少なくとも、フィレントにはそう思えました。
「くそっ、こんなことになったのも元はと言えばフェリノアのせいだ。奴らさえいなければ僕とマレアが離れることはなかったんだ。」
再びはらわたの煮えくり返る思いが沸いてきました。このまま怒りに身を任せてしまいそうでした。
「そんなことになったら、僕は一体どうなるんだ?だめだ、自分が自分でなくなってしまう。」

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