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第五章「嘆きの朝」【12】

「ワシュウ様は?」
「私にはまだ子守が残っておる。」

デコデイは二十人の兵を選びました。そしてイオニーネを連れて北北西へ向かいました。イオニーネは何度も振り返り、ノドモスの安否を気遣いました。ワシュウと百騎余りの騎馬隊は、戦場を目指して出発しました。隠れていたトーレンはすでに戦場に戻った後でした。彼はイオニーネが連れて行かれるのを見届けてから、すぐに馬を走らせたのです。ノドモスは治療はされたものの、その場に置き去りにされています。馬を走らせながら、トーレンは自分の体が熱くなるのを感じました。トーレンの心の中は、ノドモスへの不信感が晴れた喜びと、彼を信じることができなかった後悔とが入り混じっていました。ノドモスがなぜこの旅に加わったのか、そして今もまたイオニーネと共にいて百三十騎の敵と相対したのはなぜか、それはトーレンにはわかりません。しかしノドモスが命を懸けて戦ったのは事実です。そしてそれこそがノドモスの全てだとトーレンは思いました。

                 

エトン・ロジルの欠点はすぐにかっとなる所です。剣術の腕前だけを見れば、その実力はマスグ・ゴウドをもはるかに凌ぐとさえ言われていました。しかしその短気さゆえに、彼はこれまでその能力をいかんなく発揮することができませんでした。そして今日もまた彼は周りが見えなくなっていました。前に出ようとすれば止められ、進路を変えようとすれば道をふさがれました。そのことが彼の頭にさらに血を上らせました。遠くでトーレンが何か叫んでいました。しかしそれはエトンの目には入りません。自分でも歯がゆい思いでした。フィレントには感情を抑えろと言っておきながら、自分はこの有様です。今の彼にできることは目の前の敵を切ることだけで、他の事に気を配る余裕はありませんでした。しかし、その彼を冷静にさせたのは皮肉にも敵の足音でした。その音はエトンたちの背後から迫ってきました。蹄が大地を蹴る音が何十、何百と重なって聞こえてきました。エトンは振り返りました。その視線の先には、昨晩自分たちを震え上がらせた騎兵の集団がいたのです。そしてさらにエトンを慌てさせたのは、フェリノア歩兵隊の豹変ぶりでした。騎馬隊の姿は当然歩兵たちの目にも入っており、それは彼らを勇気付けました。
「味方だ、援軍だ、ワシュウ様が助けに来てくださったぞ!」

遊牧民たちの目に力がみなぎり始めました。途端に彼らは本来の力を取り戻し、ヤスブたちに反撃を始めました。ヤスブは周囲をぐるっと何重にも囲まれ、先に進めなくなってしまいました。マスグやピルセンも動きを止められてしまいました。そうするうちにも騎馬隊がやって来ています。騎馬隊到着の一報は、戦場の後方にいるオセアスとラゾイの耳にも届きました。
「私一人で片付けられるのに!」
オセアスは歯軋りをし、ラゾイは安堵しました。
「間に合った。」
オセアスの後ろにふわっと人影が浮かびました。ラゾイはぎりぎり反応し、小刀をその影に向かって投げつけました。影は小刀を自分の短刀で弾き飛ばし、オセアスの右横、馬の右後ろの足元に着地しました。ユレイスです。オセアスは何が起こったかわからず、固まっています。ラゾイはオセアスの馬の尻を飛び越え、足元のユレイスに短刀を突き刺しました。しかしそれより速くユレイスは馬の腹の下に滑り込み、そのまま左側へ抜け、オセアスの左足をすぱっと切りました。オセアスは声にならない悲鳴を上げました。
「おのれ!」

ラゾイは再び馬の尻を飛び越え、ユレイスに切ってかかりました。ユレイスは後ろへぱっと下がりました。
「ゲジョルはどこだ?」
「ゲジョル?貴様、ゲジョル様に何の用だ?!」

オセアスが痛みで馬から落ちそうになっています。ラゾイは急いで彼の体を支えました。
「ゲジョル様はここにはおらん。貴様、このような事をしてただで済むと思っているのか!」
「もとより大将の首が狙いだ、この戦いを終わらせるにはそれしかない。」
「馬鹿め、もうすぐ騎馬隊が到着する。お前たちもこれまでだ。」
「何、今頃騎馬隊が?!」
ラゾイはオセアスを馬にしがみつかせました。
「誰か、オセアス様がケガをされた、手当てを!」
その瞬間、ユレイスはラゾイに音も無く近づき、彼に一太刀浴びせました。ラゾイは慌ててかわしましたが、彼の左頬骨の下から血しぶきが飛び散りました。

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