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第五章「嘆きの朝」【11】

「まあ待て、これは老体に鞭打ってここまでやってきた私へのほうびぞ。貴様らは黙って見ておればよい。」
「ワシュウ、私が勝ったら手を引くか?」

ノドモスはワシュウをぐっとにらみつけました。ワシュウもまたノドモスをにらみ返しました。
「ふむ、よかろう。お互いに全てを賭けるというわけだな。お主が勝ったら我々は手を引くことを約束しよう。」

これにはワシュウの部下は怒りを露わにしました。
「馬鹿なことを、そんな事を勝手に決めるなど許されませぬぞ!」

ワシュウは再び大きな声で笑いました。
「許せよ、デコデイ。私はスウェイヴ将軍に誠意を見せたいのだ。一騎討ちを受けてくれるのだからな!」
それからワシュウはデコデイから目をそらし、唇だけを動かしました。
<もし私が負けたら、全員でかかってスウェイヴを討て>
デコデイはまばたきを二回しました。そして舌打ちをしながらワシュウから離れました。ノドモスとワシュウは各々後ろに下がり、距離をとりました。ワシュウは馬をなだめています。
「どう、どう、落ち着け、あと少しだ。」

ノドモスは馬を勇気付けています。
「案ずるな、お前は真っすぐに走り抜ければよい。」

二人は槍を地面に垂直に立て、準備が整った合図をしました。
「よいかスウェイヴ、一、二の、三で始めるぞ!」
「いつでもよいぞ、ワシュウ!」
一瞬、静まり返りました。
「一!」

槍を地面と平行に構えました。
「二の…」
二人はぐっと状態を前のめりにしました。
「三!」
馬が走り出しました。二人は雄叫びを上げました。それは人の声というよりも、まさに獣の咆哮でした。騎馬隊の兵たちの多くはその声に体をこわばらせました。トーレンも息が止まりそうでした。二人の距離はみるみる縮まりました。ぶつかる、と思った瞬間二人は交錯し、そのまま反対方向へ駆け抜けていきました。走りながら、ワシュウは槍を落とし、体を馬の首にもたれかけさせました。左手で右腕を押さえています。逆の方へ駆けていったノドモスは、馬から落ちていました。仰向けになったままぴくりとも動きません。彼の右の脇腹からはどくどくと血が流れています。トーレンは飛び出していきそうになるのを必死でこらえました。馬車から出てきたのはイオニーネです。
「ノドモス!ノドモス!」
彼女はノドモスの名を叫びながら彼のもとへ走り寄り、彼の体を揺すりました。
「娘を捕らえよ。」

ワシュウは腕から鮮血を滴らせています。痛みに顔を歪めながらデコデイたちに指示を出しました。デコデイは、ノドモスとワシュウの勝負の余韻から我に返りました。そしてノドモスの傷口を押さえているイオニーネのところへいきました。イオニーネはデコデイの方を向きました。
「彼はまだ息をしているわ、心臓も動いているのよ。お願い、ノドモスを助けて!」
「出血が多すぎる、手遅れだ。彼はじきに死ぬ。」
デコデイは馬を下りました。
「嘘よ、死なないわ。ノドモスはそんな弱虫じゃないのよ、ケガさえ治ればまた元気になるわ。」
「残念だが、我々は彼にかまっている暇はない。君を本国まで連れて行かなければならないのだ。」
「だったらここで私も殺して。」

デコデイはやれやれといった具合に首を振り、仲間の兵士を一人呼びつけました。
「この老人の手当てをしてやれ。」
兵士はノドモスのケガの治療を始めました。
「この男は医者だ。できるだけのことはするだろうが、助かるかどうかは保障はできんぞ。それでよいな?」
「いいわ。」

ワシュウも治療を受けていました。彼の右腕は深くえぐれ、肉の間から骨が見えています。
「彼との勝負は紙一重だった。私の方に少しだけ運があったようだ。」
ワシュウはデコデイにさらに指示を出しました。
「この中から精鋭二十人を選び出し、娘を本国へ運ばせろ。指揮はデコデイ、お前が執るのだ。進路はここから北北西、ノリッド・バーグを目指せ。その市長には賄賂が効く。国境を越える手助けをしてくれるだろう。とにかく急いでここを発て。我々は手間取りすぎたかもしれん。任せたぞ。」

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