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第五章「嘆きの朝」【7】

「案ずるな、ニダロ。例えどちらかが倒れたとしても二人は永遠の友だ。俺はお前がリセラたちと幸せに暮らすことを願っている!元気でな、弓の名手よ!」
「アクベイ、俺はお前が生き抜くことを願う。無茶はするなよ、また会おう、弓の名手よ!」
アクベイは振り返らずに去りました。ニダロは再び弓を引き絞りました。ここにある矢が無くなったら、ニダロは決断をしなければなりません。アクベイの言うとおりに帰るべきか、否か。それはニダロの生き方の選択でもありました。

               

遊牧民の騎馬隊が現れました。騎馬隊を束ねるワシュウはこの戦況を見て驚く、というよりはあきれ返りました。彼らがいる場所はヤスブたちのはるか後方です。ここから彼らはヤスブ一行を攻めるつもりでいました。つまり歩兵隊と騎馬隊で挟み撃ちにする計画だったのです。昨日の夜、ヤスブ一行を追い詰めた騎馬隊はそのまま走り去り、目的地へ向かいました。それはリアライ・バーグへ続く道の一角でした。騎馬隊は昨晩、ヤスブ一行がリアライ・バーグへの進路をとった場合に備えて待ち伏せをしていたのです。そして歩兵隊は騎馬隊とは反対の道、つまりヤスブ一行が実際に進んだ道の先で彼らを待ち受けたのです。しかし歩兵隊は騎馬隊の到着を待たずして攻撃を始めてしまっていたのです。
「我々を待ちきれず先走るのはかまわんが、あれは一体どうしたというのだ、まったく陣形が整っておらんではないか!たかだか十人足らずの連中に何を手間取っておるのだ、オセアスは?!」
歩兵隊は隊列の崩れを立て直すことができないままでした。兵士たちは右往左往しています。
「使えぬ男だ、やはりあんな役立たずには任せておけんな。ラゾイ、ラゾイはどこだ?!」
すぐに一人の兵士が近づいてきました。
「ラゾイはおらんのか?」
「ワシュウ様、その前にあちらをご覧くださいませ。」

兵士が指差した先にあったのは馬がつながれていない二台の馬車でした。
「あれは奴らの馬車なのか?」
「わかりませぬ、ラゾイ殿が今調べに行かれるところでございます。」
「いや、調べるのはラゾイの手下にやらせよ。ラゾイはすぐにオセアス様の元へやらせよ。陣形を整えさせるのだ。」
すぐに伝令が走り、ラゾイにワシュウの命令が伝えられました。

                

「止むをえん、イーとアロは馬車を調べよ。サウンはこの先の道をしばらく走って調べてこい。馬車に馬がつながれていないのが気にかかる。もし既に逃げた後ならかなり先を行っているかもしれん。飛ばして行け、サウン。」
ラゾイは部下に指示を与え、自分はオセアスの所へと急ぎました。
「ゲジョル様の言う通りだ。あの四男坊に大将としての資質など皆無に等しい。兵たちの無駄死にがさらに増えそうだ。」
ラゾイの命令どおり、サウンはバドに続く道へ馬を走らせました。残ったイーとアロは二台の馬車を調べることにしました。一台目の馬車にはたくさんの袋が入っていました。袋の中には大きな宝石のついた指輪や、タブレストという貴重な金属でできた首飾りなど、高価な物がぎっしりと詰められていました。
「これは大した額になるぞ。」
イーはほくそ笑みました。アロが二台目の馬車の扉を開けました。その中には俯いた女が一人で座っていました。女の髪は赤い色をしています。
「赤毛の娘だ…」

アロはイーのいるほうへ向き直りましたが、イーは袋の中の財宝に気を取られていました。その時、アロたちに向かってものすごい勢いで馬が一頭走り寄ってきました。その馬には老人が乗っています。老人の右手には槍が握られています。
「その娘に触るな!」

老人の大きな声に驚いて、アロとイーは一斉に声の主を見ました。老人は二人に向かって突進してきます。ところが、アロとイーは体がすくんで動けなくなっていました。老人の怒りの声が彼らの体を縛り付けたのです。何の抵抗もできないまま、アロの体は老人の槍に串刺しにされました。老人はアロの体から槍を素早く抜きました。そこでようやくイーは老人の呪縛から逃れ、動けるようになりました。しかし時すでに遅く、イーの目の前には馬上の老人が立ちはだかり、その槍はイーの心臓を貫いていたのです。ワシュウは老人の声に聞き覚えがありました。そして兵士二人をあっという間に倒した槍捌きにも心当たりがあります。でもそこにいる老人の身なりはみすぼらしいものでした。ワシュウは出て行こうとするほかの兵士たちを制しました。
「わが目で確かめるとしよう。お前たちは私の後からついて参れ。ただし私がいいと言うまで手出しはするなよ。」

馬車の中の赤毛の娘にも、老人の声は届いていました。娘は馬車の窓を開けて周囲を見渡しました。すると、そこにはついさっき別れたばかりの老人がいたのです。槍を持ち、馬に乗ったその老人に、娘は思わず叫びました。
「ノドモス!」

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