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第五章「嘆きの朝」【5】

スロンゼルの体がわなわなと震えています。
「スロンゼル、私は最後の旅に出るよ。」
そう言って、ノドモスは来た道を引き返していきました。
「ノドモス、ノドモス…ああ…」
ノドモスの姿は見る見る小さくなっていきました。スロンゼルは呆然とし、動くことができませんでした。

               

遊牧民たちは二匹の鬼になぶり殺しにされていました。鬼の名はマスグ・ゴウド、そしてもう一匹の名はピルセン・ヌエルエフです。遊牧民たちは鬼の餌食となり、次々と命を落としていったのです。マスグの武器は剣と言うよりも棍棒でした。他の剣が平坦に近い形なのに比べて、マスグのそれは四角柱の棒といった感じです。切れ味は普通の剣よりも鈍く、まさに切るというより殴るという方法で敵を倒すのです。重さは普通の県の二倍以上あります。そんな物を振り回すことができるのは怪力のマスグだけでした。その剣の名は『天の柱』を意味する“ローガル・ロガ”といいます。この剣を彼に与えたのは彼の師匠、チャジャイです。チャジャイはマスグの力を高く評価し、自らの分身とも言うべきローガル・ロガをマスグに譲ったのです。そのことに生涯最高の感激を得たマスグは、師弟関係をことさらに重視するようになりました。そのため彼は、かつてはピルセンを指導し、今はレゴやフィレントのことを目にかけるようになったのです。そして彼は今、言葉ではなく自分が戦う姿を見せて勉強させようとしていました。マスグはローガル・ロガを振り、敵の剣を真っ二つに折り、敵の骨を粉々に砕くのでした。彼の通った跡には無残な死体が転がっていました。しかし敵兵に攻められた彼の馬がいよいよ立っていられなくなり、そこにへたり込むとマスグは大地に降り立ちました。
「我が剣を受け止められるならばやってみよ!だがそれができなければ貴様らの体はバラバラに飛び散るぞ!さあ、かかってこい!」
そのすぐ近くで二本の剣を縦横無尽に振り回して、次々に敵を切り捨てているのはピルセンです。彼は二刀流の使い手です。右の剣で突き刺し、左の剣で切る、時には片方の剣を盾代わりにしながら、まるで踊るように戦っています。彼は動く者がいなくなるまで、その舞いを続けるのです。彼の名はバドだけではなく、その近隣の国までとどろいていました。『禁じるは、ピルセンに二本の剣』、彼に剣を二本持たせたら手が付けられなくなるという、敵兵たちの恐れを表した言葉です。彼は今日、確かな手ごたえを感じていました。いつもより体が動くのです。いつもより鋭く切ることができました。いつもより深く切ることができるのです。マスグとピルセンを呼びました。
「どうだピルセン、今日の俺は絶好調だぞ!さっきは一振りで三人倒したぞ、こんなことはなかなかない、これなら五十人でも軽くいけそうだ!」
マスグが敵兵を叩き割る音が響きました。
「私もです、マスグ様。今日は私も剣も大いに血に飢えているに違いありません。私は…今日百人切ります!」
百人、と聞いてマスグは背筋が寒くなりました。ピルセンの口からそんな言葉を聴いたのは初めてのことでした。しかし、ピルセンなら成し遂げてしまうかもしれない、とマスグは思いました。ピルセンが敵兵の頭を落としました。マスグはピルセンを頼もしく思い、同時に頼りない弟子のことを思い出しました。
「ピルセン、俺はフィレントを探す!お前はこのまま行け!」
「御意!!」
マスグはフィレントを探しました。まさか既に死んでしまっているのではなかろうかと、彼の気は焦りました。

                  

ひゅっと風を切り裂く音がして、フェリノア兵の心臓を矢が射抜きました。ニダロ・ファーナーが放った一撃でした。ニダロはバドに妻と子供を待たせています。物静かですが気丈な妻、二歳になったばかりの娘と妻のお腹の中にいる子です。三人に会うまでは死ねない、と彼は懸命に弓を引き絞りました。妻のリセラはニダロが旅に出ることに反対しました。これから子供が生まれるというのに、なぜ危険な旅に向かわなければならないのかと、出発の直前まで彼を説得しようとしていました。リセラはニダロよりもずっと年下で、周囲の反対を押し切って、自分の父親と同じくらいの年齢のニダロと結婚したのです。ニダロにとってもようやく手に入れた家庭です、離れたくないのは彼も同じでした。しかしそれでも彼は旅に出ることを選んだのです。

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