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第五章「嘆きの朝」【6】

ニダロはヤスブ一行がゲジョルに狙われるようになってから、少しずつ後悔していきました。妻の言うとおりにして、バドに残ればよかったと思うようになったのです。彼は故郷の家族を思うあまり不眠症になり、ユレイスから眠れるようになる薬をもらっていました。そんな彼と共に矢を放っているのはアクベイ・マリットラスです。ニダロとは幼い頃からの付き合いです。共に遊び、共に学び、時には殴り合いのけんかをしながら、二人は四十年をいっしょに生きてきました。軍への入隊も同時でした。彼らは共に弓矢を自らの武器として選び、互いの技術を競いながら腕を磨いてきました。やがて二人はバドで一・二を争う弓の名手となりました。その後ヤスブの騎士団に編入され、今日に至ります。先に結婚をしたのはアクベイです。でもその夫婦生活は長くは続きませんでした。その理由についてアクベイは、互いの理解が足りなかったと言うにとどまりました。アクベイはニダロが結婚すると聞いて心の底から喜びました。ですからアクベイもニダロの妻と同様に、ニダロが旅に同行することには難色を示しました。始めからアクベイは一人で旅に参加するつもりでいました。しかしそれを聞いたニダロが彼と共に行くと言い出したのです。ニダロにしてみれば、大事な友を一人で危険な旅に出すわけには行かないという思いからでした。アクベイの後悔はそこにありました。自分さえ旅に出ると言わなければ、ニダロは家族と離れ離れにならずに住んだのだ、とアクベイは悩みました。そしてニダロが苦しむ姿を見て、アクベイはその思いをさらに募らせたのです。二人の矢は面白いように的中しました。フェリノア兵たちは飛び道具を何一つ持ってきていませんでした。それゆえに彼らは敵の遠距離からの攻撃になす術がありません。フェリノア兵は自分の隣にいた仲間が突然倒れたことに驚きました。倒れた兵の首を矢が貫通していました。彼らはいつ自分たちに矢が飛んでくるかわからず、恐れおののきました。ふと、ニダロはアクベイの様子が気にかかりました。アクベイは険しい顔をして戦場を眺めています。
「どうしたアクベイ、何か見えるのか?」
「なぜ騎馬隊は姿を現さんのだ?」
「あそこにいる歩兵の連中がそうじゃないのか?馬はどこかに置いてきたのかもしれんぞ。」
「この地形なら馬に乗っていたほうが有利だろう。俺は後から戦列に加わるものだと思っていたが、いつまでたってもやって来る気配がない。それにあそこにいるのはどう数えたって五百もいないのだ。」
「ではどこかに隠れているのだろう。」
「どこかに隠れるといっても…いや、ひょっとしたら俺たちの作戦が読まれているのかもしれん!」

そういうとアクベイは馬を繋いである所へ走り始めました。
「おいアクベイ、どこへ行くんだ?!」
「マレアたちが心配だ、馬車の所まで行ってみる!」
「まさか一人で行くつもりか?もし本当に騎馬隊が馬車のほうへ向かっているとしたら、お前だけではどうにもならんぞ!」
「ではヤスブ様にこの事を伝えよう、お前はこれまで通り味方を援護していてくれ。」
「わかった、俺はここにある矢を全て撃ってからヤスブ様たちと合流する!」

アクベイは馬にまたがり、そしてニダロをじっと見つめました。
「いや、お前はここから動くな!」
思わぬアクベイの言葉にニダロは驚きました。
「何、どういうことだ?!」
「矢を撃ち尽くした後はここで戦局を見守っていろ、ということだ。ニダロよ、俺はこの戦い、俺たちに勝ち目は無いと思っている、万に一つもだ。お前はバドへ戻れ、家族の元へ帰るのだ。戦いが終わり、敵がこの地を引き上げたら、お前はバドを目指せ。そうだな、マレアたちを追っかけてもいいだろう。その方がノドモスたちも心強いというものだ。だが一人で帰ってもいい、かえって身軽で危険も少ないかもな。可笑しいか?だが俺の望みはお前がバドへ無事に帰りつくことだけだ。」
「馬鹿を言うな、俺がお前を置いて一人で逃げるなんてできると思っているのか?!」
「逃げるのではない、帰るのだ。リセラに会いたくはないのか?娘のルファはお前の帰りを待っているぞ。帰ったら川遊びをすると約束したんだろう?それに、リセラのお腹の子供が男か女かもわからんうちに死ぬわけにはいかんのだろう?」
「いや、しかしアクベイ…」

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