第五章「嘆きの朝」【2】
「ノドモス、マレアが眠ったわ。手を貸して。」
ノドモスはマレアの様子をそっと伺いました。彼女の胸がかすかに上下に動くのを見逃していたら、勘違いしてしまうところでした。
「本当に寝ているだけかね?」
「ユレイスからもらった薬のおかげよ。しばらくは何をしても起きないわよ。…でもきっと起こるわね、知らずに薬を飲まされたんだから。」
「仕方あるまい。起きたままではぐずってここを出て行こうとはせんかったろう。しかし、私の若い頃はそんな薬、危なっかしくて簡単には使えなかったもんだが。…どれ、スロンゼルにも手伝わせよう。いやいや、心配はいらんよ。奴さんはすでにこの計画のことを知っているようだ。」
それはスロンゼルとノドモスの二人でマレアをバドへ連れて行くことが決まった直後のことでした。ノドモスはヤスブから今度の計画のことをスロンゼルにも伝えるように言い渡されました。この計画に納得しているわけではないノドモスでしたが、今からそんなことを言い出しても無駄だと思い、彼はヤスブの命令に従うことにしました。さて、ノドモスがスロンゼルに秘密の作戦を伝えた時、ノドモスはスロンゼルから思いがけない告白を聞きました。ノドモスは、イオニーネがマレアの替え玉になる作戦のことを知っており、さらにそのことをトーレンにも話したと言うのです。
「内容を知らなければならん必要最低限の数じゃろうて。」
ノドモスはスロンゼルを呼びました。スロンゼルは決意を固めたイオニーネと、何も知らずに薬で眠らされているマレアを見て、とても悲しくなりました。そんな彼にノドモスがこう言いました。
「ぐずぐずしている暇はないぞ、スロンゼル。急いでマレアをこの袋に入れなさい。」
ノドモスは人が一人すっぽりと入れるほどの、大きな麻の袋を取り出しました。
「ところどころに小さな穴が開いておるから息苦しくなることもあるまい。それ、イオニーネも手伝っておくれ。」
イオニーネが袋の口を大きく開き、スロンゼルとノドモスがマレアを抱えて袋の中に入れました。
「私とスロンゼル、馬一頭ずつで行こう。馬車は置いていく。これからは目立たずにこっそりと移動していくのだ、よいな?」
ノドモスは二台の馬車にそれぞれ二頭ずつつながれている馬たちを馬車から外し、自分たちが乗る二頭を選びました。そして残りの二頭は逃がしてやりました。スロンゼルは自分が乗る馬にマレアが入っている袋を載せました。続いてスロンゼルはノドモスを何とか馬に乗せてやりました。ノドモスは振り返りました。既にイオニーネの姿はそこにはありませんでした。彼女はもう馬車の中に戻っていました。扉は閉められています。
「行きましょう、ノドモス。時間がありません。」
「わかっておる…イオニーネ、これが今生の別れではないぞ!」
ノドモスたちを乗せた二頭の馬が走り去りました。このことは遊牧民たち、すなわちフェリノアの兵たちにはばれませんでした。残されたのは二台の馬車でした。片方の馬車には”森の乱暴者”のアジトからせしめてきた財宝が詰まっています。そしてもう片方にはイオニーネが一人、静かに座っていました。大声で泣き叫ぶわけでもなく、怒りで誰かをののしるわけでもなく、ただそこに座っていました。
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