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第五章「嘆きの朝」【3】

ヤスブ・ワイゼルンはバドで一番強い騎士団を束ねるリーダーでした。彼の剣さばきは優雅で華麗。その優れた身のこなしで、返り血を浴びることはほとんどありません。戦場で敵味方の兵士が血でどろどろになる中、彼だけが体を汚すことなく駆け抜けて行くのです。その光景は、まるで彼一人が光って見えるようでした。ヤスブに付けられた名は“バドの輝ける鷹”。その美しい姿は戦場では当然目立ち、敵を惹きつけました。しかし彼はどれだけ的に囲まれようとも、全てを切り倒し、再び戦場を駆け抜けてゆくのでした。ましてや今のように統率の乱れた相手など敵ではなく、易々と切り捨てていきました。ヤスブと今回の旅をしてきた兵士たちは皆ヤスブの騎士団の一員でした。この旅に出る直前、ヤスブの騎士団は解散したのですが、彼を慕う仲間たちは彼について行くことを決めたのでした。そこにイオニーネとノドモスが加わり、ヤスブ一行は旅に出たのです。ですからヤスブには仲間一人一人の命を預かる責任がありました。兵士たちにも、ノドモスにも、そしてかわいそうなイオニーネにも。本当ならこんな日を迎えたくはありませんでした。また一人敵兵を切りました。しかし迷ってはいけないと、以前に師と崇める人物から教えられました。敵兵の右腕が飛びました。リーダーとしての責務を果たすのは今からでも遅くはない、仲間の命を守るのだ、と彼は思いました。敵兵の頭を叩き割りました。敵兵たちは恐れおののいています。それでも、イオニーネだけは、彼女に対してだけは一生償っても償いきれない罪を背負うことになるのです。祖国のためなどと、本当は言い訳にもならないのです。彼女の人生を台無しにしてしまうのです。ヤスブはありったけの声で叫びました。
「殺されたくなければ道を開けよ!」
後ろに飛びのく敵兵もいます。彼の視線の先にあるのは、敵の群衆のはるか広報、この歩兵部隊において数少ない馬上の兵士でした。それはすなわち指揮官に違いありません。敵兵が混乱からの立て直しを図る前に、何としてもあそこまでたどり着かなければなりません。ヤスブたちが山で土砂に埋もれた道を切り開いていた頃、既にフェリノア兵はこの地に到着していたはずです。ヤスブは自分の読みの甘さを呪いました。仲間を窮地に陥れたのは自分であり、彼らを救うために一刻も早くこの戦いを終わらせなければなりません。勝てる見込みがなかったとしても、ヤスブにはそうすることしかできないのです。

                

ユレイス・レセは愛馬ドウィから降りました。彼の武器は短刀一本です。ですから馬に乗ったままで戦うのは無理があります。
「自由に、生きよ。」
彼はドウィを逃がしました。主人の命に従い、ドウィは走り去りました。ユレイスはフェリノア兵の懐までもぐりこみ、その喉笛を切り裂きました。時に敵兵の頭上を飛び越え、着地しながら短刀を敵の体に突き立てるのです。ユレイスはヤスブの騎士団の中にあって特殊な役割を担っていました。迅速なる情報収集や、敵陣営を混乱に陥れるなど、裏で騎士団を援護することが彼の仕事だったのです。したがって彼にとって戦闘は二の次です。しかしながら、その一番の仕事で彼は詰めを誤ったのです。“五百人の遊牧民”、彼らについての情報をもっと詳しく探っておくべきだったと彼は悔いていました。せめて彼らがどこまで来ているのか、ヌイレドからもっと聞きだすことができたかもしれません。ゲジョルと戦い、生死をさまよい、貴重な時間を費やしたのです。フェリノア兵に追いつかれたのは自分にも責任がある、とユレイスは思っていました。彼は細長い小刀を敵に向かって投げつけました。小刀は敵兵の右目を貫きました。普段なら無心で戦っていたユレイスが、今は迷いながら短刀を振るっています。敵兵を切り裂きながら小刀を投げていました。小刀は敵兵の額に突き刺さりました。後悔の念を必死に振り払いながら戦っていました。フランネの顔がユレイスの脳裏をかすめました。彼女はきっと今も酒場のカウンターに立ち、男どもを前に愛想を振りまいているのでしょう。この旅が終わったら、彼はリグ・バーグに戻ってくるつもりでいました。兵士としての自分を捨て、フランネに会いに行こうと決めたのです。

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