第四章「誓いの夜」【24】
それはまさしくユレイスがヌイレドから聞いた、遊牧民と呼ばれる者の姿でした。それまでの苦労も空しく、ヤスブ一行はついに追いつかれたのです。その数は左右それぞれに数十騎ずついます。ヤスブたちは馬の速度を上げ、各々武器を手にしました。彼らはそれまでの疲労も忘れ、今からの戦いに緊張を高めました。ところが、遊牧民たちは一向に攻めてくる気配がありません。いつまでもヤスブたちと並んで走っているだけです。日が沈みかけていました。やがて道は緩やかに下り始めました。ヤスブ一行が走っている道だけが緩やかに下り始め、その左右の草原は平坦なままで続いています。ヤスブ一行はこの道を走るほかに手はありません。道は左右を小高い崖に囲まれるようになりました。ヤスブたちの頭の上では遊牧民たちがヤスブ一行を見下ろしながら併走しています。ヤスブたちはこの道に誘い込まれたのです。辺りはどんどん暗くなっていきます。ヤスブは全員の進行を止めました。崖の上の遊牧民たちは、立ち止まったヤスブたちをうかがいつつもそのまま走り去っていきました。暗闇にヤスブたちだけが取り残されました。辺りには物音一つしませんでした。そしてこの静けさは彼らに恐怖を与えました。馬車の中のイオニーネは、おびえるマレアの手をしっかりと握り、ついにこの時が来たことを悟りました。祖国バドを救うため、その身を投げ出す日が来たのです。
ともすれば途方に暮れて頭の中が真っ白になってしまいそうになるのを必死にこらえ、ヤスブたちは思考をめぐらせました。
「あの騎馬隊は五百もおりませんでした。せいぜい百五十といったところでしょう。残りの部隊は後ろから我々に近づきつつあるに違いありません。しかし前に進んでも騎馬隊が待ち伏せしているはずです。」
「奴らは歩兵部隊ではなかったのか?!」
「歩きのままでは追いつけないと思って馬を集めたんだろう。しかし五百を一度に集めるのは無理だったのだ。集まった分だけで先に我らを追跡したというところだろうな。」
「ではまだ残りの三百はここまで来てはおりますまい。今から引き返して、せめてこの道を外れましょう。こんな所では逃げ場もない。ぐずぐずしていて挟み撃ちにでも会ったら、それこそ一巻の終わりですぞ。」
「しかしそれこそ奴らの思う壺やもしれん。既に残りの三百余りも到着していて、この道の入り口で我々を待ち伏せしていることも考えられる。我々がこの道を引き返してくるのを手ぐすね引いておるのだ。」
ニダロが悲しげにこう言いました。
「ヤスブ様、我々はどうしたらよいのでしょう?」
「確かに我々は追い詰められた。しかし、ここでこうしていても何も始まらん。ユレイス、まずはこの道の入り口を探ってきてくれ。我々が引き返せるかどうかを。」
「御意。」
そういってユレイスはあっという間に闇の中へ消えていきました。レゴは夜空を見上げました。星がまばらに点在し、ちかちかと瞬いています。彼はむしょうにイオニーネの顔を見たくなりました。彼はそっと馬車に近づきました。ノドモスが首だけを動かしてレゴを見ていました。レゴは馬車の扉を軽くトントンと叩きました。イオニーネははっとしてまずマレアを見ました。そして扉に向かって答えました。
「誰?」
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