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第四章「誓いの夜」【18】

ロリョートに怒鳴られ、チメメは渋々店の外へ出て行きました。
「あいつはあの通り余計なことばかり言ってる奴なんだが、使いっ走りぐらいにはなる。しかしあいつは間違ったことは言ってなかったな。どう頑張ったって盗賊はしょせん盗賊だ。その世界でしか生きられないんだよ。なああんた、手を組もうぜ。リグ・バーグへの交渉事は俺たちに任せればいいんだ。あんたはその娘を連れて来てくれさえすればいい、簡単だろ?」
「私にあの子を売るようなことはできない…。」
「売るといってもその娘がひどい目に遭うわけじゃない。黄金を生むんだ、大事に扱ってもらえるに決まってるさ。リグ・バーグには金がある。その娘だってお姫さんのような暮らしができるはずだぜ。だけどあんたたちはバドに行くって?あんな貧しい国に行ったところでどんなふうに大事にされるっていうんだ?ひょっとしたら食う物にも困る生活が待ってるだけかもしれん。どっちが娘のためになると思う?よく考えろよ。」

確かにこの男の言う通り、バドは貧しい国で、それは誰もが知っている事実です。
「それにだ、あんたのお仲間はその娘を利用しようとしているんだ。それで本当に娘は幸せになれると思うのか?」

スロンゼルの心は揺らぎ始めました。バドでもリグ・バーグでもマレアが黄金を生む娘という見られ方をするのは同じです。それならいっそ裕福なリグ・バーグに行ったほうがよいのではないかと思い始めたのです。ロリョートはスロンゼルの動揺を見逃しませんでした。
「本当によく考えてくれ。自分のためにもなることなんだからな。考えが決まったら娘を連れてこの町へ戻ってきてくれ。俺たちはこの町をねぐらにしているからな。あんたなら来てくれるはずだ、待ってるぜ。」
「馬鹿な、俺はそんなことを…」

そこへチメメが小走りで近寄ってきました。
「さっきの奴が戻ってきたぜ。女もいっしょだ。」
ロリョートとセッツァは立ち上がりました。ロリョートはスロンゼルの肩を二、三回軽く叩いてその場を去っていきました。スロンゼルはテーブルの上にあったコップを自分の分を残して全部隣のテーブルに移動させました。スロンゼルは椅子に深く座り、大きくため息をつきました。そこへトーレンとマレア、そしてイオニーネがやって来ました。
「スロンゼルさん、お待たせしました!さ、帰りましょ。」

マレアの明るい笑顔に、スロンゼルも笑顔を返しました。
「そうだね、帰ろう。皆のところへ。」
マレアはスロンゼルの手をとり、楽しそうにお風呂の自慢をしています。この愛らしい少女のために自分は何をするべきか、真剣に考えなければならないとスロンゼルは思うのでした。

              

夕食の間もマレアのはしゃぎようは治まりません。陽気にしゃべったり笑ったり、時には踊ったりしています。彼女の笑顔はその場の雰囲気をぱっと明るくさせます。皆マレアのことが大好きでした。マレアは今夜の踊りのパートナーにニダロを指名しました。マレアに手を引っ張られ、輪の中心に連れてこられたニダロは意を決して彼女と踊りだしました。ぎこちないながらも、ニダロは一所懸命踊りました。マレアもそれに答えて軽やかに舞っています。彼女は踊りながら周囲を見渡しました。みんなの笑顔が見えます。彼女も嬉しくなりました。ところが、その中に一つだけ沈んだ表情を見つけました。フィレントです。そういえば、マレアはリグ・ラから帰ってきたときから、フィレントに元気がないと思っていました。

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第四章「誓いの夜」【17】

体格は皆同じように中肉中背に見えます。一見どこにでもいそうな彼らでしたが、目つきだけが違っていました。その目をスロンゼルはよく知っていました。ギラギラしたあの目は、盗賊の目です。”森の乱暴者”にいた頃、仲間たちは皆一様にあの眼をしていました。ひょっとしたら、自分もあの目をしていたかもしれない、とスロンゼルは思いました。
「盗賊のお前らに話すことは何もないぞ。」
彼らは驚き、一瞬ひるみました。若い男・チメメがあわてた様子でこう言いました。
「どうして俺たちが盗賊だって知ってるんだ?!」
ロリョートはチメメをにらみつけ、舌打ちをしました。
「自分からばらしやがって、馬鹿が。まあいい、あんたが言うように俺たちは盗賊だ。いや、正確には盗賊だったと言ったほうがいいだろう。俺たちは”屈強な熊”という盗賊団の一員だったが、マセノアの軍に壊滅させられたんだ。くそっ、相手はガキどもばかりだったのによぉ。俺たちは何とか逃げ出してここまで流れてきたっていう訳だ。だが俺たちはついてたぜ。何しろあんたらに会えたんだからな。」

スロンゼルは盗賊を相手にする気はなく、この場を立ち去ろうとしました。その時今までずっと黙っていたセッツァがスロンゼルの腕を掴みました。
「まあ待ちなよ、あんただってこんなところでケガをしたくはないだろう?」
彼は左手でスロンゼルの腕を掴みながら、右手を自分の懐に入れています。彼に促され、スロンゼルは再び席に着きました。ロリョートは店の人間に酒を四杯持ってこさせました。
「まあ、まだ乾杯というわけにはいかんだろうが、まず話だけでも聞いてくれ。」
既にスロンゼルの肝は据わっていました。その表情を見てロリョートは笑みを浮かべました。
「何だ、あんたも同業って面構えじゃねえか。仲良くやろうぜ。」

そういって彼は自分のコップをスロンゼルの目の前にあるコップに軽く当てました。
「話があるなら早くしろ。俺の連れが戻ってきたら、お前らなどは抵抗する間もないぞ。」

スロンゼルの目に力がこもりました。チメメは少しひるみました。

                

「簡潔に言おう。その娘を売っちまえばいいんだ。そうすれば手っ取り早く大金が手に入るぜ。」
スロンゼルはあきれた顔で深いため息をつきました。
「くだらん、誰がそんなことをするものか!」
「リグ・バーグなら高く買うに違いない。それを俺たち四人で山分けすればいいんだ。」
「俺に仲間を裏切れというのか?ますますくだらん話だ。」
「待てよ、あんただって金は欲しいだろ?」
「そんな薄汚いまねをしてまで金を手に入れようとは思わん。俺はもう盗賊じゃない、心を入れ替えたんだ。」
「なあ、よく考えても見ろよ。元盗賊のあんたが今さらまじめにやったところで先は知れてるぜ?あんたの今のお仲間だってあんたのことを盗賊だと知ってるんだろ?どうせ心の中じゃ疑ってるに決まってるさ。」
「そんなことはない、皆俺のことを信頼してくれている。」

チメメが鼻で笑いました。
「信じてるわけないだろ!そういうふりをしてるだけさ。盗賊なんてのは皆同じ目で見られるんだよ。あんたも真人間になることなんかあきらめて俺たちの仲間になれよ。俺たちは人を集めて新しく盗賊団を作るつもりなんだ。その名も”手負いの熊”って言うんだ。どうだい、なかなかカッコいいだろ?」
「おいチメメいいかげんにしやがれ、お前は外に出て待ってろ!」

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第四章「誓いの夜」【16】

「うむ、だが今そのことは考えるまい。皆でいっしょに帰るのだ。スロンゼル、もちろんお前もバドへ来てくれるな?」
「はい、私でよければ喜んで。」
「それを聞いて安心した。どれ、私はマレアたちを迎えに行くとしよう。」

そういって立ち上がろうとしたトーレンをスロンゼルが止めました。
「いいえトーレン様、そのような役目でしたら私にお任せください。」
「いいのだ、私は酒を少し飲みすぎた。酔い覚ましに歩いてくるよ。お前はここにいてゆっくりと飲んでいるがいい。」
トーレンは酒場を出て行き、スロンゼルは一人残りました。スロンゼルは先ほどの言葉を少し後悔していました。自分はこのままバドに行ってしまっていいものかと悩んでいました。彼自身の旅の目的は家族の消息を掴むことです。バドに行くことが最善のことなのか彼にはわかりませんでした。その時彼は自分への視線を感じました。隣のテーブルの男たちがスロンゼルを見ています。この男たちは先ほど馬の雨乞い様の昔話をしていた三人です。なぜ彼らが自分を見ているのか、スロンゼルには見当も付きません。スロンゼルは辺りをうかがいましたが、当然トーレンの姿はありません。彼らは席を立ち、スロンゼルの元へ近寄ってきました。金でもせびるつもりなのでしょうか?彼の額には脂汗が浮かんできました。

                

スロンゼルの体は固まってしまったかのように動きませんでした。三人組はスロンゼルがいるテーブルの席に座りました。
「おい、あんた。」
スロンゼルの真向かいに座っている、先ほどの昔話を大声で語っていた男が最初に口を開きました。スロンゼルは答えません、いや、答えられませんでした。彼はテーブルの中央部分を見つめたまま石のように動きませんでした。
「何だこいつ、俺たちのことを無視しようってのか?!」

スロンゼルの右隣の若い男がけんか腰で言いました。真向かいの男が彼を制しました。
「そのままでいいから聞いてくれ。俺の名はロリョート、隣の若いのがチメメ、もう一方にいるのがセッツァだ。俺たちは別にあんたをどうこうしようって言うんじゃない。その、黄金を生む娘の話が聞きたいんだ。」
スロンゼルはちらりと真向かいの男・ロリョートを見ました。
「私たちの話を盗み聞きしていたのか?」

スロンゼルは震える声で尋ねました。
「人聞きが悪いな、はじめはもちろん聞く気なんてなかったよ。でも自然に聞こえちまったんだ。何しろあんたら大きな声で話していたからなぁ。」
何という不用心さでしょう。自分だけならともかく、まさかトーレンまでもが酒に酔って大声を出してしまっていたとは驚きです。しかもそれを今彼らに指摘されるまで気づかずにいたのですから、まさに笑うに笑えない失態でした。
「全部聞いていたならもういいじゃないか。他に話すことなんて何もないよ。」
スロンゼルは少し落ち着いてきました。
「いやいや、聞きたいことは山ほどあるよ。あんた、その娘が黄金を生むところなんて見たことないんだろ?」
「そりゃそうさ、人が金を生むはずもないし、その話さえ今までまったく知らなかったんだからな。」
「だけどあんたらを追ってる連中はその娘を欲しがってる。そうだろ?」
スロンゼルはゆっくりと男たちを観察しました。彼らの服装は一般的なもので、リグ・バーグの町の人間がよく着ています。年の頃は、ロリョートが四十代後半で、セッツァが四十代前半、チメメが二十代後半といったところです。

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第四章「誓いの夜」【15】

狙われていたのはマレアだったのです。
「トーレン様、先ほどの昔話についてお聞きしたいことがございます。」
「何だ?言ってみろ。」
「赤毛と赤目の子供が黄金を生んだ、ということですが”生む”とはどういうことでございましょうか?」
「そこは私にもよくわからんのだ。具体的に語られたのを聞いたこともない。せいぜい子供の周りに自然と黄金が現れてくる、というぐらいだ。しかし、子供の両親はそのことを知らなかったようだから、それは無理があるな。」
「単に景気がよくなっただけということは考えられませんか?それでしたら偶然ということもありえるのではないでしょうか?」
言い終えたところで彼は後悔しました。トーレンたちはそのために命がけで旅をしているというのに。
「スロンゼル、お前の言うことももっともだ。バドの人間でさえ、あれは迷信で、そのために国費を使って遠いマセノアへ旅をするなどばかげているという者もいたよ。実際私もその一人だ。」
「トーレン様はやはりそのようにお考えでしたか。恐れながら、それではなぜトーレン様はこの旅に出られたのでしょうか?」
「始めは私もヤスブ様に出発を思いとどまらせようとした。だがそれは聞き入れられず、ヤスブ様が旅に出られることが決定した。それならば私はヤスブ様をお守りするために、旅に同行することを決めたのだ。すると、結果として赤毛と赤目の子供は存在した。本人を見るまで半信半疑だった私だが、マレアを初めて見たとき考えが変わり、そして確信したよ。この旅は無駄ではなかったとな。」
「マレアを見て、でございますか?しかしそれだけで昔話が実話だとは確信できないのではないでしょうか?」
トーレンはにやりとしました。
「昔話は迷信だと私は今でも思っているよ。余談だがマスグは信じているよ、心からな。だがここで必要なのは昔話どおりの姿をしたものがいたということだ。信じている人間にとってはそれが大きな励みとなる。今バドの民の士気はかなり落ちているのだ。皆働く気力を失くしてしまっているのだ。生きる目標を見出せないでいる。マレアが黄金を生もうが生むまいが、彼女の姿を見れば祖国の者たちの気力は大いに上がることだろう。」
「なるほど。」
スロンゼルは感心しました。トーレンはさらに語り続けました。
「だからこそ、マレアを必ず無事にバドへ送り届けなければならんのだ。それこそがバドの希望なのだ。」
「しかし今、私たちは追われているというわけですね。トーレン様、それはいったい誰なんですか?」
「今のところわかっているのはリグ・バーグ、そしてフェリノアだ。奴らは軍隊を使って我々からマレアを奪うつもりでいる。」
「それではリグ・バーグやフェリノアにもあの昔話が広まっているというわけですか?」
「少なからずどこの国にもあの昔話を知っている者がいると見て間違いないだろう。バドから他の国へ移り住んだ者もいるし、その逆もまた然りだ。だがまさか信じているとも思えん。奴らの真意がどこにあるかわからんが、マレアを狙っているのは疑いようがない。」
「確かに、フェリノアはもちろん、リグ・バーグも裕福な国でございますから、今さらいくばくかの黄金をほしがるとも思えません。」

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第四章「誓いの夜」【14】

ムーレイと名づけられた女の子はすくすくと育ちました。ところがムーレイが六歳になった頃、ナロスの一家の元へ再び治安隊がやって来ました。一家は役人の元へ連れて行かれました。役人はナロスにこう言いました。
「お前の娘は黄金を生んでおる。わが国はこの数年、どんどん経済状況が上向いてきておる。それで我々もその理由を調べてみた。すると、どの証言や物証からもやがてはお前の子供に辿り着いてしまうのだ。信じられんかもしれんが、恐らく、お前たちの強い信念が娘に奇跡の力をもたらしたのだ。お前の娘はわが国にとっても宝である。しかし、ンヴェアが難癖をつけてきたのだ。娘の母親は元々自分の国の人間なのだから、娘の所有権はわが国にあると言ってきたのだ。しかし案ずるな、我々は彼らの主張など認めない。お前はこれからも娘を大事に育てるがよい。」
ナロスはわけがわかりませんでしたが、これまで通りの生活を続けました。しかしそれからもンヴェアからはムーレイの所有権を主張する声が絶えませんでした。そしてある日、ンヴェアの兵隊が現れ、ムーレイを無理やり連れ去ってしまったのです。これに起こったログサレンはンヴェアへ軍隊を送り込みました。それを見てもンヴェアの役人はムーレイを返す気がないようでした。ログサレンはさらに多くの軍隊を送り込みました。しかしそれでもンヴェアはムーレイを返しませんでした。ログサレンはとうとう全ての兵士をンヴェアに送り、侵攻を始めました。ついに戦争になってしまったのです。戦いは十三日間繰り広げられ、たくさんの兵士が犠牲になりました。ンヴェアはようやくムーレイを返す気になりました。その代わりにンヴェアは条件を出しました。ログサレンとンヴェアで一年ごとに交代でムーレイを預かろうというのです。そしてその間に生まれた黄金はその時に滞在している国の物にするというのです。ログサレンもこれ以上戦争を続けて被害を広げたくなかったので、その条件を呑みました。こうして、ナロスの一家は一年ごとにログサレンとンヴェアで暮らしました。物が見えないナロスと、音が聞こえないヘノトのために召使もつけられ、一家は何不自由なく暮らすことができました。子供はそれぞれの国のために黄金を生みました。両国はともに豊かになりました。その子供が老いて亡くなるまで、両国の繁栄はいつまでも続くのでした。

               

話し終えたトーレンはコップの酒を一気に飲み干しました。スロンゼルは何をどう話せばいいのか思案に暮れていました。その彼を見ながらトーレンはこう言いました。
「バドの国民はこれを昔話として代々語り継いできた。だが多くの人間がこれを真実だと信じているのもまた事実だ。年寄りなどはほとんどの者がこの黄金をめぐる戦争が本当に起こったと言っているよ。そして十五年前、それは十七年戦争が終わった年、昔話と同じように夜空に大きな星が流れたのだ。我々は星の落ちた方向を探した。そして十三年かかってついに白森の村にいるマレアを探し当てたのだ。祖国の民は大きな期待を持って我々を送り出してくれたよ。今我々の旅は半分を終えたところだ。後はマレアを無事にバドへ連れて行くだけだ。しかし、我々の仲はうまく行っていない。ぎくしゃくしているよ、正直なところ。まったく、これからが正念場だというのに!」
トーレンのコップを持つ手に力が入っていました。スロンゼルはこれまでわからなかったことにようやく答えが出たような気がしました。なぜトーレンたちが追われているのか、それがスロンゼルにとって最大の謎でした。しかし料理番の自分が差し出がましく聞きまわるわけにもいかず、悶々としていました。

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