第四章「誓いの夜」【14】
ムーレイと名づけられた女の子はすくすくと育ちました。ところがムーレイが六歳になった頃、ナロスの一家の元へ再び治安隊がやって来ました。一家は役人の元へ連れて行かれました。役人はナロスにこう言いました。
「お前の娘は黄金を生んでおる。わが国はこの数年、どんどん経済状況が上向いてきておる。それで我々もその理由を調べてみた。すると、どの証言や物証からもやがてはお前の子供に辿り着いてしまうのだ。信じられんかもしれんが、恐らく、お前たちの強い信念が娘に奇跡の力をもたらしたのだ。お前の娘はわが国にとっても宝である。しかし、ンヴェアが難癖をつけてきたのだ。娘の母親は元々自分の国の人間なのだから、娘の所有権はわが国にあると言ってきたのだ。しかし案ずるな、我々は彼らの主張など認めない。お前はこれからも娘を大事に育てるがよい。」
ナロスはわけがわかりませんでしたが、これまで通りの生活を続けました。しかしそれからもンヴェアからはムーレイの所有権を主張する声が絶えませんでした。そしてある日、ンヴェアの兵隊が現れ、ムーレイを無理やり連れ去ってしまったのです。これに起こったログサレンはンヴェアへ軍隊を送り込みました。それを見てもンヴェアの役人はムーレイを返す気がないようでした。ログサレンはさらに多くの軍隊を送り込みました。しかしそれでもンヴェアはムーレイを返しませんでした。ログサレンはとうとう全ての兵士をンヴェアに送り、侵攻を始めました。ついに戦争になってしまったのです。戦いは十三日間繰り広げられ、たくさんの兵士が犠牲になりました。ンヴェアはようやくムーレイを返す気になりました。その代わりにンヴェアは条件を出しました。ログサレンとンヴェアで一年ごとに交代でムーレイを預かろうというのです。そしてその間に生まれた黄金はその時に滞在している国の物にするというのです。ログサレンもこれ以上戦争を続けて被害を広げたくなかったので、その条件を呑みました。こうして、ナロスの一家は一年ごとにログサレンとンヴェアで暮らしました。物が見えないナロスと、音が聞こえないヘノトのために召使もつけられ、一家は何不自由なく暮らすことができました。子供はそれぞれの国のために黄金を生みました。両国はともに豊かになりました。その子供が老いて亡くなるまで、両国の繁栄はいつまでも続くのでした。
話し終えたトーレンはコップの酒を一気に飲み干しました。スロンゼルは何をどう話せばいいのか思案に暮れていました。その彼を見ながらトーレンはこう言いました。
「バドの国民はこれを昔話として代々語り継いできた。だが多くの人間がこれを真実だと信じているのもまた事実だ。年寄りなどはほとんどの者がこの黄金をめぐる戦争が本当に起こったと言っているよ。そして十五年前、それは十七年戦争が終わった年、昔話と同じように夜空に大きな星が流れたのだ。我々は星の落ちた方向を探した。そして十三年かかってついに白森の村にいるマレアを探し当てたのだ。祖国の民は大きな期待を持って我々を送り出してくれたよ。今我々の旅は半分を終えたところだ。後はマレアを無事にバドへ連れて行くだけだ。しかし、我々の仲はうまく行っていない。ぎくしゃくしているよ、正直なところ。まったく、これからが正念場だというのに!」
トーレンのコップを持つ手に力が入っていました。スロンゼルはこれまでわからなかったことにようやく答えが出たような気がしました。なぜトーレンたちが追われているのか、それがスロンゼルにとって最大の謎でした。しかし料理番の自分が差し出がましく聞きまわるわけにもいかず、悶々としていました。
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