第三章「ユレイスの憂鬱」【14】
農家に生まれ育ったユレイスは、両親に連れられてよく畑へ来ていました。そこでは麦や米が育てられていました。彼はその景色を高いところから眺めるのが好きでした。季節によって畑は色を変えました。夏は緑の絨毯、秋の稲穂を刈り入れる頃は黄金の海、冬は雪が積もって真っ白になり、砂糖が敷き詰められているように見えるのが面白かったのです。しかしその畑も十七年戦争で傷つき果て、今では作物の育たない荒れた土地になってしまいました。それはユレイスの家の畑だけではありません。バドの全土がそのようになってしまい、戦後のバドは食料が足りない貧しい国になったのです。経済的にも貧窮したバドでは、他国から食料を買うこともできません。食事も満足に取れない祖国の人たちのことを思うと、ユレイスは身を切り裂かれるような思いがしていました。気がつくと農民たちは皆農場へ出払ったようで、とおりの人影は再びまばらになっていました。空を見上げると太陽は隠れ、薄曇となっていました。やはり雨季に入っているようでした。すると、こちらに近づく馬の足音が聞こえてきました。南からやって来たのは、昨日ヌイレドと分かれた彼の部下でした。騎馬隊は町の外で待っているのでしょう。程なくヌイレドと三人の部下、もう一人町役人らしい人物が役所から出て南のほうへ馬を走らせていきました。ユレイスはこっそりと木から降りました。彼は状況が動いたことに喜び、体を自由に動かせることに感謝していました。
ユレイスがヌイレドたちの後を追って町の南側まで来てみると、そこには彼の予想通り、リグ・ラーンの騎馬隊が集まっていました。しかしユレイスが不思議に感じ、その人数を数えてみると、やはりそこには騎馬兵は二十人しかいませんでした。残りの十人はどこにいるのか?ヤイリィ・メノスに残っているに違いありません。三十人などと言う少数を中途半端に分けたところでどうなると言うのでしょう。ゲジョルはよくヌイレドのような男に使えていられるものだと、ユレイスは感心しました。いや、やはりリグ・バーグは利用されているだけに過ぎず、本命はフェリノアということになるのかもしれません。リグ・バーグにはヤスブ一行を少しでも足止めさせるための駒になってもらおうとゲジョルは考えているのでしょう。しばらくして、ヌイレドは役所へ戻っていきました。ユレイスは再び役所の張り込みを始めました。途中で騎馬隊の一人が役所に出入りしましたが、そのほかは特に変わった動きはありませんでした。ユレイスはヤスブたちのことも心配でした。何も起きていないだろうか?いや、ヤスブたちならどんな危険も乗り越えられるだろうと、ユレイスは気持ちを落ち着かせました。しかし、ユレイスがリグ・ラーンでヌイレドに会った夜、ゲジョルがヤスブたちの前から姿を消したことを彼は知りませんでした。彼はこの日、この旅で一番の恐怖に出逢うことになるのです。
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