第三章「ユレイスの憂鬱」【5】
ユレイスは夜通し走り続け、最初の町に辿り着きました。どうやら彼が始めに予定していた町とは違うようでした。ここはリグ・リヤバルという町でした。田舎の小さな町でしたが、その北側では市場が開かれていました。人通りも結構多く、ユレイスはまずここで情報を集めようと思いました。ドウィを町の端につなぎ、町の人から話を聞き始めました。彼は初めに軍の動きを知ろうとしました。市場にある店の人間から聞いたのは、最近になって首都リグ・エ・バーグよりの使者が頻繁にこの町を訪れるようになったということでした。それは3、4日に1度と言うから驚きでした。さらに別の店の者からは、その使者はリグ・エ・バーグの本城デ・ファルシオより使わされた兵隊たちだと聞かされたのでした。しかもその兵隊たちはこのリグ・リヤバルとリグ・ラーン、リグ・システィンの3つの町に使わされただけだと言うのです。リグ・システィンはユレイスが訪れようと予定していた町でした。すなわち、ヤスブ一行が通過しようとしている町なのです。ユレイスはリグ・バーグ軍の警戒ぶりが何を意味するのか解っていました。自分たちが狙われているのは間違いありませんでした。しかしそれ以上にいやな予感がユレイスの脳裏をよぎりました。自分たちがこの辺りを通過することが筒抜けだったということが心配でした。ヤスブ一行の動きを掌握していたのはゲジョルだけでした。ゲジョルがリグ・バーグにも情報を漏らしていたということなのでしょうか?疑惑は深まるばかりでした。首都からの使者は昨日来たばかりでした。早くとも次に彼らがやってくるのは明後日と言うことになります。ユレイスは使者たちの動向を探り、できれば接触を試みようと考えました。1度ヤスブの元に帰ることも可能でしたが、あまり動き回るのも得策でないと考え、この町にとどまることにしました。
ユレイスは他の情報を集めようと思い、旅の行商人を探しました。そして”エイダの店”という一軒の酒場に入りました。まだ昼前だというのに、店の中は酔っ払いたちの活気で満ち溢れていました。ユレイスはある旅行者風の3人のグループに近づき、酒をおごりながら話を聞きました。彼らはここから南西へ遠く離れたバーグ地方からやって来たようでした。彼らはめいめいの家族を連れて、チッタ・バーグやマイセ・バーグを通り、ようやくバドニアが伺えるところまで到着したのでした。今はそのうちの3人だけで酒を飲みに来たというわけです。彼らの一人がこう言いました。
「俺たちの住んでいた町はトミアとの国境に近いところだった。トミアは、あそこはいけねぇ。戦争はとっくに終わったって言うのに、やつらはまだ王国様とやり合うつもりでいやがる。」
王国様とはフェリノア王国のことです。フェリノアと戦争を起こした周辺の11カ国では、悪意があるなしにかかわらず”王国様””帝国様””大国様”と呼ぶことがあります。
「トミアは大戦の責任を宰相の…何て言ったかな、ネルシアか、奴一人に押し付けて自分たちに罪はないといった顔をしているが、実はそうじゃない。ネルシアを宰相にしたのはトミアが戦争を起こす大儀を得るためで、王国様と戦争をしたがっていたのは奴ら自身なのさ。そしてそれは今でも変わっちゃいない。トミアは戦争の準備を着々と進めているという噂だぜ。」
「なぜ戦争を?しかもトミア一国だけでは勝算は無いと思いますが。」
「トミアが今度は何を大義名分にしようってのかははっきりしない。単なる侵略で少しでも領土を奪ってしまおうというつもりだっていう奴もいれば、ネルシアが生きていてまた奴を宰相に祭り上げるつもりだという奴もいるのさ。ただ戦争を始めるときにはもちろん他の国と手を組むに決まってる。リーガスやアレイセリオンなら、大戦ではフェリノアにひどい目に遭っているからこの話に飛びつくかもな。まあ、このリグ・バーグやバドはその話には乗らないだろうがな。知ってるかい?100年前にあった戦争の時、トミアはリグ・バーグから支援の要請を受けたが断ったんだ。そのしこりは役人同士の間では未だに根強く残っているのさ、だからトミア主導の戦争に協力するわけがない。バドは金が無い。あそこは土地も大半が痩せこけてしまっているから作物も育たない。国民も貧窮してしまっているのさ、腹が減っちまって戦争なんかできっこない。」
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