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第二章「マレアとイオニーネ」【24】

彼はそれを避けようとしましたが、わずかに遅く彼は自分の肩に激痛が走るのを感じたのです。ピルセンの肩には柄が無く細長い刃物が突き刺さっていました。ピルセンはその痛みに顔を歪めましたが、それでも火を消す動作をやめませんでした。彼の援護のため、ニダロは刃物が飛んできたほうへ向けて矢を放ちました。矢は木の繁みの中へ吸い込まれていきました。しかしこれは当たらなかったようでした。アクベイも同じ方向へ弓を構え、再び刃物が飛んでくる確かな位置を見極めようとしています。ニダロは違う方向からの攻撃に備え、矢の向きを左右に動かしながら木の上をにらみつけていました。マスグは敵が隠れているらしき木の下へすばやく近づきました。レゴとフィレントはピルセンのすぐそばまでにじり寄っていました。そしてようやくピルセンが火を消したとき、再び光の玉が放たれました。今度は三つ同時に飛びました。その瞬間を逃さず、すかさずニダロが光の玉が出現したほうへ向けて矢を撃ちました。火の玉はゆっくりと地面に向かって落ちていきます。その間にニダロは二の矢、三の矢を次々と放ちました。一瞬、空気が止まり、木の繁みの中から黒っぽい塊が落ちてきました。そのころ光の玉が地面に落ち、火の手が三つ、辺りを照らしました。その明かりは動かなくなった塊をも照らし出しました。今はそれが何であるかはっきりとわかります、人間でした。ニダロの矢が二本、獲物の脚とのどを貫いていました。三つ上がった火の手はレゴとフィレントが懸命に消しています。ピルセンはノドモスに連れられて、マレアたちが隠れているテントのほうへ避難していきました。アクベイはそのまま弓を構え続け、ニダロもまた弓を構えなおし、マスグは身を低く構えていつでも飛び出せる体制をとっていました。そんな中、ヤスブは神経を研ぎ澄まし、まだ残っているであろう敵の気配を窺っていました。レゴが最後の火を消し終わり、辺りがまた暗闇に包まれました。またこの状況が続くのかと、レゴノートンがうんざりとしていた時、一人ヤスブは異変を感じ取っていました。今ここには敵の気配がまったく無かったのです。それまで感じていた、焼け付くような殺気も、すべてを貫くような視線も何もかも無くなっていました。これにヤスブは混乱し、かつてない不安を覚えました。待ち遠しい夜明けはいまだ見られず、時間はただゆっくりと過ぎてゆくだけでした。

              

宝の詰まった倉庫には別の通路が延びていました。その先には、これも大きな部屋が広がっていました。その部屋も薄暗かったのですが、そこにはたくさんの台車や馬車があり、さらには10頭ほどの馬もつながれていました。スロンゼルによれば、その部屋は外へと通じているとの事でした。エトンがよく調べてみると、暗闇の固まったその部屋の隅にはこれまでよりもさらに大きな扉があったのでした。これで財宝を外へ運び出す目処が立ちました。ただし、それでもここにある全ての財宝を運び出すのは不可能でした。そこでトーレンはまず、これからの旅に必要な物を選別し始めました。
「残念だが、全部持っていくのは無理なようだ。馬車2台に積めるだけ積んでいくことにしよう。」
そして選ばれた物から順に、エトンとスロンゼルが馬車へ積み込んでいきました。やがて2台の馬車は、宝や武器・防具類でいっぱいになりました。出発の前に、エトンは”森の乱暴者”と戦った大広間へ戻りました。ここには、これまでトーレンやエトンを苦しめた尾行者の屍があったのです。エトンは地面に落ちている刀を1本拾い上げ、その尾行者の首を切り落としました。エトンは尾行者の髪をつかみ、生首をそのまま手にぶら下げてトーレンの元へ向かいました。尾行者の首の切断面からはとめどなく血が流れ落ちていました。その間にトーレンは馬を馬車につなぎ、残った馬たちを外へ出して逃がしてやりました。そのうちにエトンがやって来ました。彼は途中で拾った布で尾行者の首をくるんで縛り、それを腰の帯にくくりつけていました。
「出発の準備は整ったな?それではヤスブ様の元へ戻るとしよう。スロンゼルよ、もちろんお前もついてくるのだ。私と一緒にこちらの馬車に乗れ!」

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第二章「マレアとイオニーネ」【23】

アジトの大広間から伸びているいくつかの通路のうちの一つを通り、3人は奥へ奥へと進んでいきました。壁に沿って松明が置かれていましたが、通路を進むにつれてその数も減っていき、辺りは薄暗くなっていきました。はやがて3人は大きな両開きの扉に突き当たりました。扉の両端には松明が灯されていました。トーレンはスロンゼルにその扉を開けさせました。スロンゼルはゆっくりと扉を左右に開きました。その中は松明の明かりも無く、真っ暗でした。エトンは静かに短刀を抜き取りました。スロンゼルは中に入り、持っていた松明で明かりを灯していきました。そこには先ほどの大広間よりもさらに大きな空間が広がっていました。その場所は倉庫になっていました。“森の乱暴者”が、おそらくその略奪行為で集めたであろう金銀財宝の類や、剣・弓などの武器類、鎧や盾などの防具類が所狭しと置かれていました。トーレンとエトンは思わず目を見張りました。トーレンはこうつぶやきました。
「盗賊のアジトへ来るのだから多少なりとも期待はしていたが、まさかこれほどとは。」
「”森の乱暴者”はその辺の烏合の衆とは違うようですね。しかしこれだけの物があれば、これからの旅も心強いですな。」
「うむ、その通りだ。ヤスブ様は決していい顔をされぬかもしれんが、これをいただかぬ手はあるまい。」
トーレンは、壁際に立ち尽くしているスロンゼルに向かって、こう言いました。
「さて、スロンゼルよ、お前に尋ねよう。この宝は”森の乱暴者”の物だが、今生き残っているのはお前一人だ。したがってこの財宝を所有する権利を持っているのはお前だけだ。そこでだ、お前はこの宝をどうするつもりだ?自分一人の物だと主張してこの宝の山を守っていくつもりでいるのか?」
「と、とんでもございません、トーレン様。私めにはこれほどの宝は分不相応にございます。どうかヤスブ様の旅のためにご用立てくださいませ。」
「それを聞いて安心した。感謝するぞ、スロンゼルよ。それでは次にこの宝をヤスブ様の元へ運ぶためにお前の知恵を貸してくれ。」

                     

森の中では、ニダロとアクベイの矢が次の獲物を射抜いていました。今度は二本ともに手ごたえがありました。撃たれた者は声一つ立てることなく、木の幹を滑るように落ちてきました。最初の獲物と同じように、この獲物も人か獣か区別がつきませんでした。しかし急所を撃ち抜いたのは間違いないようで、程なくこの動物も呼吸をしなくなりました。しかしこれではヤスブたちには戦況がどのように動いているのか掴めませんでした。自分たちが撃ち殺したのは果たして敵だったのか?いずれにしてもヤスブは、ニダロとアクベイに矢を撃たせることをやめさせるわけにもいかず、木の上にいるはずのゲジョルたちもまたこの場から離れることができなかったのです。そしてこの戦いが始まってからいったいどれほどの時間が流れたのか、今は深夜か夜明けが近いのか、その感覚すら誰にもわからなくなっていました。そして戦いは続きました。次に動いたのは木の上の敵陣、ゲジョルたちでした。突然小さな光の玉が木の繁みの中から放たれました。その玉はふわりと中を舞い、それが地面に落ちた瞬間、ぼうっという音とともに火の手が上がりました。それを見たヤスブたちは思い出したのです。あの光の玉は油袋という物でした。それは文字通り油の入った袋に火をつけて投げ、それが何かの衝撃で袋が弾けて中の油が飛び散り、火が大きく広がるといったものでした。敵はそれを使い、暗闇に光を灯し、敵の位置を探ろうとしたのです。燃え盛る火の近くにはピルセンがいました。ピルセンは火を消そうと、着ていたマントを脱ぎ、それを火に被せていました。しかし油で燃えている火はなかなか収まってくれませんでした。しかも悪い事にそのピルセンの姿が周りから丸見えになってしまったのです。その時ピルセンは、かすかな殺気が音も無く、しかも一気に自分に向かってくるのを捉えました。

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第二章「マレアとイオニーネ」【22】

そしてその広間からはさらにいくつもの通路が伸びているのでした。スロンゼルはトーレン達の反対側の壁に張り付いていました。彼の目は大きく開かれ、目の前の3人を見つめていました。しかし彼の顔は青ざめ、体は強張っているようでした。トーレン達はスロンゼルに近づこうとしましたが、彼のただならぬ様子に一瞬足を止めました。すると、広間の方々から延びている通路の陰からぞろぞろと人が現れました。手にはそれぞれ刀や斧を携えていました。恐らくこのアジトの番をしていた“森の乱暴者”の一味に違いありません。トーレンは長刀を抜き、エトンは両の手に短刀を一本ずつ握っています。相手の数は十人足らずでした。2人は囲まれる前に素早く動き、次々と敵に切りつけていきました。しかしこの広間はテーブルやイスが並んでおり、戦闘には不向きな場所でした。しかも敵のアジトの中での戦いは彼らにとって不利以外の何物でもなく、2人は苦戦を強いられました。その間もスロンゼルは壁に張り付いたままでした。初めこそ敵に押されていたトーレンとエトンでしたが、徐々に形成は逆転し、ついには敵の全員をその床に屍として倒れさせたのでした。2人は敵の返り血を浴び、全身を真っ赤に染めていました。武器を持つ彼らの手はまだ緊張から解放されていませんでした。彼らはしばらくの間息を切らしながら敵の死体を眺めていました。そしてようやく気持ちが落ち着いてきた頃、彼らはその死体の中に、あの自分たちが捕らえた尾行者の無残な死体を発見するのでした。尾行者は後ろ手に縛られ、逃げる間もなく切り捨てられたようでした。トーレンはさばさばした表情でこう言いました。
「残念だが、これは仕方が無い事だ。我々は自分の身を守らなければならなかった。この男の心配までしている暇はなかったのだ。いや、こいつはひょっとしてわざと殺されたのかもしれんな。それが仲間を守るためにこいつ自身で決めた事なのか、それともこいつらの掟なのかはわからん。だがエトン、お前の言ったとおりになったな。こいつの首を持って帰り、レゴやフィレントに確認させることにしよう。しかし我々にはその前にするべき事がある。それから片付けよう。」
トーレンはそう言うと敵の死体が着ている衣服の汚れていない部分で刀の血を拭き取り、鞘に収めました。それから彼は広間の隅で頭を抱えて小さくなっているスロンゼルの所へと歩いていきました。そしてスロンゼルを真下に見下ろす所までやってくると、彼に向かってこう言いました。
「スロンゼルよ、今ここでお前の意思を聞こう。お前はどうしたいのか?」
スロンゼルは恐ろしさのあまりに口も聞けずに震えるばかりでした。トーレンは少し声を大きくして彼に言いました。
「答えよ、スロンゼル!お前は生を選ぶのか、それとも死か!!」
「し、死にたくありません、死にたくなどありません!!お許しくださいトーレン様、もう二度とあなた様を裏切るような真似はいたしません!」

スロンゼルは頭を抱えたまま、おびえた声でトーレンに答えました。
それではスロンゼルよ、私はお前の罪を許し、生きるチャンスを与えよう。これからはいついかなる時も我々を陥れようなどとは考えぬ事だ、よいな?お前には今から存分に働いてもらわねばならない。わかったのなら立ち上がってこのアジトの中を案内してもらおうか。」
スロンゼルは恐る恐る立ち上がり、トーレンとエトンをアジトの奥へと導いていくのでした。

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第二章「マレアとイオニーネ」【21】

トーレンとエトンはこのアジトの奥へと走っていってしまったスロンゼルを探す事にしました。トーレンが先頭に立ち、エトンは敵の手を縛った紐を持ち後に続きました。その道中エトンは男に名前を聞きましたが、男は何も応えませんでした。エトンが何を聞いても、頑として口を開こうとはしませんでした。男は腹を決めたのか、冷静さを取り戻していました。2人におびえる様子も無く、ただじっと下を向いて歩いていました。そしてそれが逆にエトンを苛つかせました。
「トーレン様、こんな奴はこの場で切り捨ててしまいましょう!首だけを持って帰ってレゴたちに確認させれば済むことではありませぬか!」
マスグの次に短気なエトンは、もうすでに短剣の柄をしっかりと右手に握っていました。
「待つのだ、エトン。こいつはお前を挑発しているだけだ。それに乗せられてこいつを殺してしまえば、我々の負けだ。そうなればもう奴らの情報は手に入らなくなる。この男はたとえ命を落としても自分たちの仲間を守るつもりでいるのだ。」
トーレンに説得され、エトンは何とか落ち着きを取り戻しました。エトンは男を促し、再び歩き始めました。先頭を歩くトーレンは前を向きながらも、エトンに対してこう言いました。
「殺すのはいつでもできる事だ。だが、それはこいつに利用価値が無いと判断を下した時に初めてできる事なのだ。その時はエトン、お前にやらせてやろう。それまで待つのだ。」
「わかりました、トーレン様。私はもうこの男には惑わされませぬ。このまま先を急ぎましょう、スロンゼルが逃げてしまったのではないかと心配です。」

それから3人は押し黙ったままアジトの奥へと進んでいきました。

                       

森の中では静かな戦いが始まっていました。ヤスブたち一行はゲジョルとその仲間たちの気配を感じ取るために必至になって神経を集中させていました。それはとても長い戦いでした。お互いに動く事を許されぬ状況にありました。しかしたとえゲジョルがここにいたとしても、彼の気配を察知するのはこれまでもそうであったように至難の業でした。そしてもしゲジョル以外の者がゲジョル以上の手練の者であったなら、この戦いはヤスブたちには勝ち目がありません。それでもバドの兵士たちは意地でも引こうとはしませんでした。どれくらいの時が過ぎたのでしょう、全員の体をじりじりと汗が流れていきました。トーレンの班のニダロとアクベイは各々弓矢を番え、いつでも敵を撃ち落とせるように準備していました。その二人の下へ、こっそりとヤスブがやって来ました。ヤスブは2人に対して声を出すことなく、指だけを使って指示を出しました。2人はその指示に従って素早く狙いを定め弓を放ちました!そして矢が飛んでいった先から、木に突き刺さったような硬い音と、獲物を捕らえたような鈍い音がしました。程なく木の上から何かが地面に落ちた音がしたのでした。それは落ちたまま動きませんでした。かすかに新しい血の匂いが漂ってきました。木の上にいた生き物を撃ち落したようでした。その生き物はすでに事切れているようでした。しかしヤスブたちにはそれが獣か人間かを確かめる事もできませんでした。

                   

トーレンとエトン、そして捕虜となった尾行者は“森の乱暴者”のアジト奥深くへと通路を歩いていきました。やがてトーレンはその前方に広間があることに気付きました。3人はその広間へと入っていきました。そこは円形の広間で、通路よりは天井も高く、松明の数も多く立てられていたためにとても明るくなっていました。そこにはいくつかのテーブルとイスが置かれていました。

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