« 2006年4月 | トップページ | 2006年6月 »

第二章「マレアとイオニーネ」【11】

レゴとフィレントは落ち込んでいました。まじめなフィレントは元より、あのレゴでさえ肩を落とし頭を垂れていました。それを見つけたノドモスがふらりと2人のところへと歩いてきました。そしてレゴの隣に腰を下ろして、何があったのか問い掛けました。レゴはなかなか口を開かなかったので、かわりにフィレントが事の顛末をノドモスに語って聞かせました。ノドモスはフィレントの話を最後まで静かに聞いていました。それから、こう言いました。
「ミスはミスで仕方のない事だ、今度の汚名は次で挽回すればいい。気にすることは無いさ、マスグが怒ったとしてもその場限りの事だし、ヤスブ様はいつまでも部下の失敗を根に持つ男でもないからのう。しかし、ニスベアでそんな事があったとは知らなかったぞ。マレアはそんな事これっぽちも言わなんだが。」
「僕が口止めをしておいたのです。マレアが白森の村の事を思い出していると知ったら、ヤスブ様が心配するから黙っておくように、と。」
「頭がいいんだか悪いんだかわからんのう、お前たちは。」

そう言いながらノドモスは笑っていました。レゴはその間もこの世の終わりのような顔をしていました。ノドモスはレゴの顔を覗き込んでこう言いました。
「そんなに落ち込んでいるなら、レゴよ、イオニーネに言って慰めてもらうか?」
イオニーネの名を聞いて、レゴははっと顔を上げました。
「やめてくれ!イオニーネに慰めてもらうなんて冗談じゃない!俺は大丈夫だ。じいさん、決して余計な事は言わないでくれよ。フィレントもな。」
ノドモスとフィレントは顔を見合わせて笑っていました。

                          

ヤスブのそばにはトーレンとマスグがいました。マスグは既に冷静さを取り戻しているようです。3人はこれからの事について話し合っていました。
「これからの事を決めておかなければならない。」
とヤスブが言いました。
「我々がここにとどまっている間に何か仕掛けてくるかもしれん。早ければ今夜にでも襲ってくる可能性があるな。そこで隊を2つに分ける事にする。2人にはそれぞれのリーダーになってもらう。トーレンのグループにはニダロ、アクベイ、エトン。マスグのグループにはピルセン、レゴ、フィレントだ。これからはグループごとに固まって行動する事、よいな。」
「レゴとフィレント、2人とも俺のところですか?」

マスグが驚いて言いました。
「そうだ、二人はいっしょの方がいいだろう。確かにあの二人には甘い部分がある。だが、もしお互いが刺激しあえるようになればぐんと成長するだろう。そのためにもマスグ、お前が二人を一から鍛えてやってくれ。奴らはあれで、お前を尊敬しているのだ。それはお前にもわかるだろう?」
「いいじゃないか、お前とピルセンなら剣術を教わるのにもってこいだしな。」
トーレンが珍しく冷やかしの言葉を口にしました。マスグは仕方が無いといった顔をしています。
「それでは、この件はこれで決まりだな。次の話題に入ろう。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第二章「マレアとイオニーネ」【10】

ヤスブが話をしている間、レゴとフィレントはお互いの顔を見合わせていました。例の、ニスベアからの尾行者とはあの男、ゲジョルかもしれないと2人は感じていたのです。この事は2人だけの秘密にしていましたが、既にニスベアを発ってから何日も過ぎ、何事もなかったので実際2人も忘れかけていたのです。しかし今突然あの男が恐怖となって二人の心を襲ったのでした。レゴはゲジョルの事をヤスブに話す決心をしました。

                      

ヤスブが話の途中で少し間を空けたその時でした。レゴが立ち上がり、こう言いました。
「ヤスブ様、実はお話しておかなければならない事がございます。先ほどの尾行者についてです。」
そしてレゴは、ニスベアで出会った男、ゲジョルについての事を全て話しました。レゴが話し終わった後、今度はフィレントがゲジョルの話をしました。2人の話が終わったと同時にマスグが彼らを怒鳴りつけました。
「なぜそのような大事な事をだまっていたのだ?!おおかた、自分たちの手柄にしようとでも思ったのであろう!」
フィレントがあわてながらそれに答えました。
「まさか!僕にもレゴにもそんなつもりは全くありませんでした。ただ、ここまで大変な事になるとは思っても見ませんでした。ニスベアを出てから何事も無く旅が続いておりましたので、心配するほどのことではなかったのだと…。」
フィレントが口ごもったところでレゴが話を続けました。
「黙っていようと言ったのは私の判断です。先ほども申し上げましたように、あのみすぼらしいゲジョルという男が、まさかここまで我々を尾行してこようとは夢にも思わなかったのです。」
「それが命取りになるのだ、レゴよ!フィレントよ!!取り返しの付かないことが起こってからでは遅いのだぞ。お前たちはいつまでそんな甘い考えでいるつもりなのだ!そんな事で祖国が守れるのか!!」
マスグの怒りは収まりませんでしたが、ヤスブが彼をなだめました。
「マスグ、それくらいにしておいてやってくれ。まだ取り返しの付かないことが起こったわけではないのだからな。落ち着いて、座れ、マスグ。そこの2人ももういいから、座りなさい。」
マスグはしぶしぶさっきまで座っていた場所に腰を下ろしました。レゴとフィレントもうつむいたままその場に座り込みました。レゴは口をつぐんだまま体を震わせており、フィレントは青ざめた顔をしていました。それを尻目に、ヤスブは再び話し始めました。
「今のレゴとフィレントの話を聞く限りでは、そのゲジョルという男が尾行者本人か、そうでなくとも何らかの関わりがあるという可能性が高いな。だが目的は間違いなく、マレアだ。レゴに近づいてどこからやって来たのかを確認し、その後でマレア本人かどうかを直接彼女に聞いて確かめたのだな。大胆な奴だ。全員、彼女への注意を怠るな。夜の見張りは一人増やす事にしよう。そして、全てを報告せよ!いかなるつまらない事でもだ!ではこれにて解散、マスグとトーレンは残ってくれ。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第二章「マレアとイオニーネ」【9】

それから数日、ヤスブ一行は順調に旅を続ける事ができました。レゴとフィレントの心配も杞憂であったと思われました。一行はリグ・バーグとバドニアの国境沿いに南西へと進んでいました。そしてそれから更に数日経ったある日の事でした。隊の中央にいたヤスブの左隣にトーレンが静かに近づいたのです。トーレンはヤスブに顔を向けることなく前方を見つめながらさりげなく話し始めました。
「…お気づきですか?どうやら監視されているようです。」
「ふむ。だとすればニスベアからだろう。かなり尾行に長けた者のようだが。」
「そのようですな。隊の中でこの事に気付いているのはユレイスだけです。しかし尾行者はその者1人かと思われます。いかがなされます?このまま進めば恐らく国境を越えた時点が危険となりましょう。」
「何が目的かわからんな。ここで隊を切り離してその者を追わせるのも得策とは思えん。我々の使命はあくまでもマレアを護衛する事だ。とりあえずは気付いていない振りをして様子を見ることにしよう。」
「御意。それではこのまま進むとしても、国境を越える前には斥候を出さねばなりませんな。リグ・バーグはともかく、その先のトミアは最近ますます情勢が不安定だと聞きますので。危険は大きくなりますが、斥候はいつもの通りユレイスに任せることにいたしましょう。」

それだけ言うとトーレンはヤスブのそばから少し離れ、元の位置に戻りました。

                          

尾行者の存在に気づいてからから2日後、ヤスブ一行は国境近くの森の中へ入っていきました。その森の中で小さな広場を見つけ、そこでしばらくの間ユレイスが戻ってくるのを待つ事にしたのです。ヤスブは兵隊だけを集めて次のように話しました。
「白森の村を出てからここまでは何の障害も無くたどり着く事ができた。だがこれからはそうもいかないだろう。先に言っておかなければならないのは、我々を尾行している者がいるということだ。恐らくニスベアから付いてきているものと考えられる。これがただの夜盗の一味か、はたまた別の狙いがあるのかはまだわからない。だが我々がここにとどまっている事は向こうにも知れていよう。今夜からはなお一層の警戒が必要になるだろう。そしてこれから通っていくことになるリグ・バーグとトミアは現在決して平和な土地ではない、という事も重要だ。これは来る道でも経験している事だが、リグ・バーグは大戦後、盗賊の輩が異常に増えている。狙われるのは我々のような他国からの旅行者だ。帰りの道でも当然のように襲われる事になるはずだ。前と違うのはマレアがいるということだ。彼女だけは必ず守らなければならない。夜盗などに指一本触れさせてはならないのだ。さらにトミアに関してだが、国内で不穏な動きがあるようだ。心配なのは内戦が起きないかということだ。もし内戦が始まってしまえば、我々は否応無しに、トミアを通らないように大きく迂回しなければならなくなってしまう。まあ、トミアの件については我々にはどうしようもない事だが。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第二章「マレアとイオニーネ」【8】

フィレントはマレアを見つけてほっとしましたが、彼女が得体の知れない男と一緒にいる事に気付き、足早に彼女の近くへ行きました。マレアは自分に近づいてくるフィレントに気が付きましたが、彼が少し怖い顔をしているのを見て焦りました。
「フィレント、ごめんなさい!私ったらなんて事を…。」
「マレア、君が突然いなくなってしまったから心配したよ。レゴも君の事を探しているはずだよ。一体どうして…?」
「匂いがしたの、これ…カリスの実よ。白森の村で採れたのよ。だから懐かしくなってしまって、探しに来たの。」

フィレントはやれやれといった顔をしています。しかしふと気が付くと、先ほどマレアのそばにいた男の姿がありません。
「マレア、さっき君は男の人といっしょにいたよね。知り合いかい?」
マレアもはっとして辺りを見回しましたが、もうゲジョルの姿を見つける事はできませんでした。マレアは今ここで出会った男がゲジョルという名前で、かつて白森の村に住んでいたのだという事を話しました。そしてもう一度、フィレントのそばからいなくなってしまった事を謝りました。フィレントは元の優しい顔に戻っていました。そして彼女にこう言いました。
「村の外で待っているみんなにカリスの実を買っていってやる事にしよう。白森の村にいた時はみんなこれを美味しそうに食べていたからね。みんな喜ぶと思うよ。」
それを聞いたマレアの顔はみるみる明るくなっていくのでした。

                      

あたりは日も暮れてすっかり暗くなっていました。マレア一行はヤスブたちの所へ戻り、夕食をとっていました。マレアはみんなにカリスの実を配っていました。兵士の1人、ニダロは果物が大の苦手でしたが、マレアから差し出されたカリスの実を嬉しそうに受け取り、その場でかじりついていました。隣にいたアクベイはそれを興味深げに覗き込んでいました。ニダロはアクベイをちらりと見て、小声でこう言いました。
「俺は果物は今でも嫌いさ。だが、マレアにあんな笑顔で手渡されたら食わないわけにはいかないだろう?」
「本当のことを言わなくていいのか?あの子はカリスの実を大きな袋いっぱいに買ってきていたぜ。きっと明日も出てくるだろうよ。」

ニダロは困った顔をして、アクベイはそれを見て意地悪そうに笑っていました。レゴとフィレントはみんなから少し離れた所で話をしていました。フィレントがマレアを見つけたとき見知らぬ男がいっしょにいた事を聞いて、レゴは急に険しい顔になりました。昼食をとった店で出会ったあの男に違いありません。
「恐らく同じ男だろう。ゲジョルというその男は、俺たちの様子を伺っていたんだ。目的はマレアだ。奴の言ったとおり、奴が本当に白森の村に住んでいて、それでマレアに声をかけたというのなら問題ないが、そうでなければ注意が必要だ。」
「ヤスブ様に知らせておいた方がよいでしょうか?」
「いや、しばらく様子を見よう。さっきも言ったが取り越し苦労かもしれんからな。ただし、俺たちは俺たちで警戒をする事にしよう。気を抜くなよ、フィレント!」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年4月 | トップページ | 2006年6月 »