第二章「マレアとイオニーネ」【7】
昼食を終えたマレアたちは、買い物を続けました。周りには野菜や果物が並んでいます。そこでマレアはふと立ち止まりました。彼女は何かを探すように辺りをきょろきょろと伺っていました。そして彼女はある一転を凝視したかと思うと、突然弾かれたように走り出しました。フィレントは一瞬眼を離していましたが、ノドモスがそれに気付いてフィレントに叫びました。
「フィレント!マレアを追うのだ!!」
ノドモスが言い終わるより速く、鋭い反応でフィレントはマレアを追って人ごみの中へ駆けていきました。レゴも急いでフィレントに続いていきました。イオニーネとノドモスはこの場にとどまる事にしました。
「どうしましょう!マレアは一体どこへ行ってしまったのかしら?」
「大丈夫じゃ。あの子はそんなに遠くまでは行きはせんよ。」
ノドモスは落ち着いていましたが、イオニーネはさすがに不安そうな表情をしていました。何か悪い事が起きそうな、そんな胸騒ぎがしていました。
マレアは一軒の露店の前で立ち止まりました。そこにはたくさんの種類の果物が山のように積まれています。その中にカリスの実もあったのです。彼女はこれの香りを嗅ぎつけ、そして走り出したのでした。マレアはそこで働いている中年の女性に話しかけました。
「あの…、このカリスの実はどこで採れた物ですか?」
その女性はマレアの赤い眼を見て内心驚きましたが、素知らぬふりをして答えました。
「カリスの実かい?それはね、白森の村で採れた物だよ。」
白森の村、マレアは遠く離れた故郷の名をこんな所で聞くとは思いもしませんでした。村を出たのは数日前のことでしたが、彼女にはもっと長い月日が経ってしまっているかのように思われました。村のことを思い出してしまった彼女は、そこに立ち尽くしてしまいました。
「あんた、白森の村から来たのかね?」
ふいに彼女に声をかけたのは見知らぬ男性でした。その顔はにやけていました。昼食を取った店でレゴが出会ったあの男です。ですが、マレアはその事を知りませんでした。
「はい…、白森の村に住んでいました。白森の村をご存知なのですか?あの、あなたは、…どなたですか?」
その男の汚れた格好とにやけたまま変わらない表情に、マレアも不気味な印象を覚えたのでした。しかしそれでもその男の顔はにやけています。
「私かね?私はゲジョルというのだがね、私も昔白森の村に住んでいたんだよ。おそらく、あんたが生まれるずっと前のことになるんだろうがね。だから私もこのカリスの実を見ると故郷を懐かしく思うものさ。今もこの果実の香りに誘われてここにたどり着いたんだよ。すると、あんたがカリスの実の前で立っていたじゃないか。これはきっとあんたも白森の村からやって来たんだと確信してね、それで声をかけたんだよ。あんた…お名前は?」
「あ、私はマレアと言います。」
その男の顔が一瞬だけ真顔になりましたが、またすぐもとのにやけた顔に戻りました。
「そうかい、マレアというのかい。よい名前だね。」
ゲジョルは1人で納得するように頷いていました。その時、人ごみを掻き分けてフィレントがやって来ました。
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