« 2006年2月 | トップページ | 2006年4月 »

第二章「マレアとイオニーネ」【2】

「おお、違いない!確かにお前さんの料理は一級品だよ、イオニーネ!!わしの息子の嫁に欲しいぐらいだよ!」
「おいおいじいさん、イオニーネを嫁にもらうのは俺だぜ!!なあ、イオニーネ?」

イオニーネとノドモスのやりとりに割って入ってきたのは、イオニーネと同じ年の頃の若い兵隊でした。彼の名はレゴノートンといいますが、みんなからはレゴと呼ばれています。レゴは若さあふれるいきのいい青年です。
「あらレゴ、バドには私を狙ってる男は星の数ほどいるのよ!だから悪いけど、そんなに簡単には決められないわよ!」
「残念だったな、レゴ!今夜は泣いて眠るしかなさそうだな?!」

ノドモスのからかいの言葉にもレゴは引き下がりませんでした。
「いや違うね、じいさん。彼女は最後には俺の胸へ飛び込んでくるのさ。お前もそう思うだろ、フィレント?そうだ、お前はマレアを嫁さんにすればいい!」
フィレントと呼ばれたのは、レゴよりもさらに若い兵士でした。他の者よりも色白で、顔つきも少年のようなあどけなさが残っています。
「な、何を言ってるんですか。僕たちは彼女をバドまで安全にお連れする使命があるのですよ。そんな事を考えている場合じゃないんですよ!!」
フィレントは肩を組んできたレゴの腕を振り払って彼を叱るように言いました。しかしその顔はこころなしか赤らんでいるようでした。周りのみんなはこの様子を見て、とても楽しそうに笑っています。

                      

夜も更けて、ヤスブ一行は見張りの者を残してみな眠りにつきました。マレアはテントの中で毛布に包まっています。彼女はまだ眠れなかったので、天井を見上げていました。ふるさとを離れての初めての夜でした。シノンが自分の後を追ってくる姿がまだ目に焼きついています。父と母の声が頭から離れません。しかし明日になれば、さらに家から遠ざかる事になります。やがて自分は家族のことを忘れ、家族もまた自分のことを忘れてしまうのではないかと、マレアは不安になりました。
「まだ眠れないの?」
「………」

イオニーネが顔だけマレアのほうに向けて声をかけました。マレアは口をぎゅっとつぐみ、天井をじっと見ていました。こみ上げてくるものを精一杯我慢しているようでした。
「悪い事ばかり考えてはいけないわ。長い旅になるけど、楽しい事もきっとあるはずよ。もちろんバドに着いてからも、きっといいことがあなたを待っているわよ。目を閉じていれば気持ちも落ち着くわよ。」
マレアは何も答えずに、毛布を頭からかぶりました。イオニーネはその姿を見て、彼女をとても気の毒に思いました。そして何とか彼女を明るい気持ちにさせなければと、強く思うのでした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第二章「マレアとイオニーネ」【1】

白森の村を出たヤスブたち一行は、夕方になる前にラムラス村を通り抜けました。そしてそのまま暗くなるまで道なりに進んでいきました。夜になり、彼らは道を少し外れた野原に野営の準備をしました。女性2人のためのテントも張られています。食事の用意をしているのはイオニーネと、馬車を操ってきた初老の男性でした。馬車に揺られているうちに、沈んでいたマレアの心も少しだけ安らかになってきたようでした。そのうち彼女はイオニーネの手伝いを始めました。マレアにとってはその方が気持ちが落ち着くようなので、イオニーネは彼女に手伝ってもらう事にしました。旅の一行は全員で13人になりますので、食事の量もかなりのものになりました。忙しく働く中で、マレアは初老の男性がノドモスという名前である事を知りました。
「わしも十七年戦争の時は戦いに出ていたものさ。勇敢に戦ったよ。だが敵に脚をやられてね。そう、左足だ。歩くのさえも不自由になってしまった。だから今は馬車乗りになって、みんなの世話をしているというわけだ。あそこにいる連中は戦うしか能のないヤツばかりでね、わしがいないと肉を焼く事さえも満足にできないんだよ。」
そう言ってノドモスは陽気に笑っています。マレアにも笑顔が覗けます。その様子を遠くから眺めていたヤスブも少し安心しました。ヤスブにはこの旅における心配事が色々とありました。その中には、マレアが逃げ出してしまわないかという悩みもあります。それは、まだ彼女の家に近い今が一番危険なのです。マレアが心変わりをしないように気を配らなければなりません。そして白森の村から遠く離れてしまえば、彼女もきっとあきらめてくれるでしょう。だからヤスブは一歩でも早く、先へ先へと進みたいと思っていました。そんな事をあれこれ考えていると、イオニーネの声が響き渡りました。
「さあ、みなさん!お食事の用意ができましたよ、ヤスブ様もこちらへいらっしゃってくださいな!!」
見張りのものを3名ほど周囲に配置して、残りのものは夕食を食べ始めました。兵隊たちもようやく緊張から開放されたようにがやがやと話始めました。マレアも隅のほうでイオニーネやノドモスと一緒に食事をしています。考えてみれば、マレアはこんな風に知らない人たちばかりの所で食事をするのは初めてのことでした。ただ雰囲気は決して悪くなく、むしろみな楽しそうにも見えました。
「どうしたの、マレア?料理がお口に合わないかしら?」
あまり食の進んでいないマレアにイオニーネが問いかけました。
「あ、違います。料理はとても美味しいです。みんなが楽しそうだったから見ていたの。兵隊さんってもっと怖い人たちだと思っていたから…」
「こいつらは腐れ縁でね。つきあいが長いのさ。2人を除いては、戦争の時もずっといっしょに戦っておった。お互いに助け合いながら生き延びてきた、気心の知れた連中なのさ。だから、言ってみれば家族のようなもんだ。」
「それだけじゃないわ!彼らの話が弾んでいるのは、私の味付けのおかげでもあるのよ。そうでしょ、ノドモスさん?」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第一章「初恋とカリスの実」【あとがき】

 第一章が終わりました。あとがきなんてしてみようと思います。もともとこの作品のようなファンタジー小説を書こうと思ったのは、「ロード・オブ・ザ・リング/指輪物語」の影響が大なのです。「ロード・オブ・ザ・リング」の映画を観て、原作の「指輪物語」を読んで、当時の僕はファンタジー一色となりました。そこで自分でも物語を創りたいと思うようになり、ついに2003年、この第一章を書き始めるに至ったのです。ところで、物語のタイトル「Strawberry Quest/ストロベリー・クエスト」(以下「S.Q.」)には、実は大して意味がありません。「Quest」は予想がつくと思いますが、「Dragon Quest」の影響が大です。「Strawberry」とつけたのは、僕自身イチゴ好きだったからです。つまり、実際は「Apple」でも「Lemon」でもタイトルは何でもよかったのです。
 「S.Q.」の舞台は、実在の世界とは違います。どこだか知れない世界の、とある大陸の片隅で起こった物語です。でも、実在の世界いにいる馬や犬などは出てきます。それでは、ファンタジーらしく食う相乗の生物、例えばドラゴンなどが出てくるのかと言うと、答えはノーです。出しません。それに加えて、魔法も出てきません。これらはあえてそうするつもりです。理由は、著者自身の実力のなさ、これに尽きます。竜や魔法は僕にとって禁断の媚薬なのです。これらを使えばその世界はさらに広がりを見せるでしょう。しかしそれは同時に不可能や限界と言う者がなくなってしまうという両刃の剣でもあるのです。つまり、ルール無用、何でもありのだらしない世界になってしまうのではないかと思います。教会に行ったら死者もよみがえってしまうでしょう。僕に実力があれば、そんな無秩序の中に秩序を作り出し、きちんとまとめることができるのですが、今はまだ無理だと思います。ですので、僕は「S.Q.」の世界に「竜や魔法は無し」と言う<縛り>を作りました。これが、この世界のルールです。ただ、これはあくまでも前向きなルールです。「S.Q.」の世界に重みを加えるための、無秩序にならないようにするための秩序です。それじゃあこれはファンタジーなの?って思われるかもしれませんが、それでも「S.Q.」はファンタジーです、たぶん。
 序章・第一章の舞台は小国マセノアの小さな村”白森の村”です。ここにクラス9歳の少年、キオ・マシュルが主人公です。今はまだどこにでもいるような元気な少年です。友人の二人も同様です。勝気なルイル・優しいパティン、そして真っすぐなキオ。この三人は同い年であり、今までずっと一緒に遊んだり学んだりしてきました。この三人の憧れの女性がマレアです。彼らより6つ年上の15歳のマレアは、「S.Q.」の最も重要なキャラクターの一人です。赤い髪と赤い目、この部分を除いては普通の明るい少女です。マレアはマセノアから遠く離れた国・バドの資産家の養女として引き取られることになりました。彼女を迎えに来たのはヤスブとその一行です。彼らに関して、第1章ではほとんど語られていません。この章はキオたちの初恋の行方をテーマにしていますので、それ以外のことはほとんど省きました(ひょっとしたら省きすぎたかもしれませんね)。ヤスブ一行に連れられたマレアは村を去りましたが、その直後キオたちは彼女を追って村を出ました。しかし彼らは森の中で野犬に囲まれ、その志はあえなく断念となりました。先ほど、この章のテーマを「初恋の行方」としましたが、もう一つ大事なテーマがあります。それは「挫折」です。本来ならそのまま行かせちゃうのものかもしれませんが、そう簡単に行かせるものか!これは彼らへの最初の試練です。彼らにはこの先数多くの、もっと過酷な試練が待ち受けています。彼らにその試練を乗り越えてもらうため、僕はあえて彼らに失敗という結果を与えました。彼らには強くなってもらわなくてはなりません。彼らがどうやってこの壁を打ち破るのか、それはもう少し先の話になりますが、温かく見守ってやってください。

   まなびゅ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第一章「初恋とカリスの実」【20】

あれからどのくらいの時間がたったでしょう。心配性のパティンに、また一つやっかいな疑問が増えました。彼はルイルにそっと尋ねました。
「ねえ、松明の火って、朝までもつのかな…?」
瞬間、ルイルの思考が止まりました。それは彼にも答えようがなく、ましてや考えたくもない質問でした。この火は森をまっすぐ歩いて抜けるだけなら十分もつでしょうが、一晩中燃え続けるというのは無理な話です。もしこの火が消えてしまえば、辺りは一面真っ暗になってしまいます。その時が野犬たちにとっては絶好のタイミングとなり、逆に少年たちには絶体絶命のピンチとなるのです。
「わかんないよ、そんなの!ちょっとは自分で考えろよ!!」
ルイルは思いっきりパティンを怒鳴りつけました。自分でも驚くほどの大声でした。その声にキオはふとわれに返りました。大きな野犬の呪縛から解放されたようでした。すでに彼は地面に膝まずいていました。彼は今の状況についてたくさんの事を考えました。元は自分が言い出したことから始まったのです。大事な友人を危険な目に合わせているのは自分のせいだと彼は思いました。
「ごめん…ルイル、パティン…」
キオの声は震えていました。その声にルイルの怒りもパティンの不安も消え去りました。
「僕…僕のせい…」
キオは下を向き、松明の火だけは上にかざして、声を押し殺して泣いています。2人は小さく体を丸めた友を見下ろしています。気がつくとパティンも鼻をすすっています。ルイルも悲しくなってきました。もう助からないかもしれないというあきらめが3人に重くのしかかりました。しかし、その時でした!
「キオーーー!!!」
聞きなれた声がしたかと思うと、たくさんの足音が3人に近づいてきました。声のする方を見たキオたちは、そこにいくつもの松明の明かりを見つけました。
「お父さん…!!」
声の主はゴルでした。他にも大勢の大人たちがやってきました。その姿を見て、野犬たちはとっさに散り散りになって逃げ出しました。最後にあの大きな野犬が一度キオたちを見つめ、ゆっくりとそこを立ち去りました。少年たちはすぐに大人たちに取り囲まれました。キオは真っ先に父親に飛びつき、大きな声で泣き出しました。ゴルはキオの体をさすりながらこう言いました。
「よく頑張ったな、キオ。もう大丈夫だぞ。ルイル、パティン、君たちのお父さんもこの森で君たちを探しているぞ。2人とも疲れたろ?ケガはないか?」
ルイルとパティンも泣きじゃくっていました。大人たちも安堵の表情を浮かべていました。

                 

子供たちは家に無事帰ることができました。そして暖かいベッドで疲れた体を休めたのです。次の日には両親にたっぷりと叱られました。でも1人のケガ人もなく事がすんだのは奇跡だと、村の人々は噂しました。こうして、彼らの初めての冒険は幕を閉じました。しかし、この小さな冒険がやがて大きな冒険へ続く事になるとはまだ誰も知らないのです。そして彼らの初恋も終わったわけではないのです。でも、それはほんの少し後のお話になるのです。

     ― 第一章 完 ―

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年2月 | トップページ | 2006年4月 »