第二章「マレアとイオニーネ」【2】
「おお、違いない!確かにお前さんの料理は一級品だよ、イオニーネ!!わしの息子の嫁に欲しいぐらいだよ!」
「おいおいじいさん、イオニーネを嫁にもらうのは俺だぜ!!なあ、イオニーネ?」
イオニーネとノドモスのやりとりに割って入ってきたのは、イオニーネと同じ年の頃の若い兵隊でした。彼の名はレゴノートンといいますが、みんなからはレゴと呼ばれています。レゴは若さあふれるいきのいい青年です。
「あらレゴ、バドには私を狙ってる男は星の数ほどいるのよ!だから悪いけど、そんなに簡単には決められないわよ!」
「残念だったな、レゴ!今夜は泣いて眠るしかなさそうだな?!」
ノドモスのからかいの言葉にもレゴは引き下がりませんでした。
「いや違うね、じいさん。彼女は最後には俺の胸へ飛び込んでくるのさ。お前もそう思うだろ、フィレント?そうだ、お前はマレアを嫁さんにすればいい!」
フィレントと呼ばれたのは、レゴよりもさらに若い兵士でした。他の者よりも色白で、顔つきも少年のようなあどけなさが残っています。
「な、何を言ってるんですか。僕たちは彼女をバドまで安全にお連れする使命があるのですよ。そんな事を考えている場合じゃないんですよ!!」
フィレントは肩を組んできたレゴの腕を振り払って彼を叱るように言いました。しかしその顔はこころなしか赤らんでいるようでした。周りのみんなはこの様子を見て、とても楽しそうに笑っています。
夜も更けて、ヤスブ一行は見張りの者を残してみな眠りにつきました。マレアはテントの中で毛布に包まっています。彼女はまだ眠れなかったので、天井を見上げていました。ふるさとを離れての初めての夜でした。シノンが自分の後を追ってくる姿がまだ目に焼きついています。父と母の声が頭から離れません。しかし明日になれば、さらに家から遠ざかる事になります。やがて自分は家族のことを忘れ、家族もまた自分のことを忘れてしまうのではないかと、マレアは不安になりました。
「まだ眠れないの?」
「………」
イオニーネが顔だけマレアのほうに向けて声をかけました。マレアは口をぎゅっとつぐみ、天井をじっと見ていました。こみ上げてくるものを精一杯我慢しているようでした。
「悪い事ばかり考えてはいけないわ。長い旅になるけど、楽しい事もきっとあるはずよ。もちろんバドに着いてからも、きっといいことがあなたを待っているわよ。目を閉じていれば気持ちも落ち着くわよ。」
マレアは何も答えずに、毛布を頭からかぶりました。イオニーネはその姿を見て、彼女をとても気の毒に思いました。そして何とか彼女を明るい気持ちにさせなければと、強く思うのでした。
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