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第一章「初恋とカリスの実」【14】

そしてデムの目の前にあるテーブルの上には、皮袋が3つ置かれました。
「袋の中を見なさい、デム。」
ディスマン氏に命ぜられ、デムは恐る恐る皮袋の口を縛ってある紐を解きました。そして中から出てきたのはたくさんの金貨でした。デムはその数の多さに驚き、そしてまたその意味に愕然としました。
「これは私からではなく、ヤスブたちが持ってきたものなのだよ。バドにいる私の知人からの気持ちなのだよ。これだけあれば、ミロアの薬を買うのに5年は困らないはずだ。彼女に苦しい思いをさせないですむ。マレアもきっと安心するだろう。」
バドの大富豪がミロアの病について知っていたかどうかは、ディスマン氏にも定かではありませんでした。しかしこう言う事によってデムの罪の意識を少しでも減らす事になると彼は思ったのでした。事実、デムの意思は大きく揺らいでいました。こんな大金を出せる人の養女になるのなら、マレアも幸せに暮らせるに違いない。そしてミロアにも薬を飲ませてやる事ができる。そんな考えと目の前の金貨の山にデムはやがて心を奪われていきました。
「よく考えるのだよ、デム。そして君の家族みんなが幸せになる道を選びなさい。」

                 

翌日、マレアはバドの大富豪の養女になることが決まりました。キオもその話を聞きました。キオの体は驚きも悲しみも感じられませんでした。それはルイルやパティンも同じでした。シノンは1人で大きな声を上げて泣きました。近所にも響き渡るほどの大きな泣き声でした。ミロアは耐えていました。娘との不意の別れに自分がおかしくなってしまわないように、じっとこらえていました。マレアは不思議と落ち着いていました。自分が取り乱す前に母や妹の悲しむ姿を見てしまったからなのか、それとも既に覚悟ができていたのかはわかりません。どちらにせよ、彼女は今は泣いてはいけないと感じ取っていたのでした。デムは自分でもわかりませんが、農園に行く支度をしていました。彼はいたたまれなくなっていました。彼はお金をもらった事をマレアにもミロアにも話していませんでした。それはディスマン氏からの忠告でした。もしマレアに話せば、彼女は自分がお金で売られたと思ってしまうでしょう。そしてミロアに話せば、自分のせいで家族が離れ離れになってしまうと思うでしょう。しかしサラヴィスに言われるまでもなく、デムはこの事を家族に告げる気にはなれませんでした。マレアの出発はあさってになりました。旅の準備には大して時間をとられませんでした。もともとマレアはそんなに多く荷物があったわけでもなく、さらにヤスブの方からも必要な物は全て向こうでそろうから持っていかなくてよいと言われていたのでした。余った時間を彼女は農場でカリスの実を摘んで過ごす事にしました。シノンも母に連れられて収穫の手伝いにやって来ました。4人は黙々と作業をこなしました。マレアは時々家族一人一人の顔を見やりました。これが家族そろっての最後の収穫になると彼女は感じていました。

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