トップページ | 2005年11月 »

第一章「初恋とカリスの実」【2】

息を切らした3人の視線の先には1人の少女の姿がありました。マレアです。彼女はサグ家の長女でキオよりも6つ年上の15歳です。マレアは働き者で可愛らしい普通の女の子でした。少し人より違うのは、彼女が赤い髪とさらに燃えるように赤い眼をしていることでした。白森の村の住人にもそんな髪や眼をした人はいませんし、マレアの両親も特に目立った髪や眼をしているわけではありません。かといって彼女がどこかから拾われてきた子というわけではなく、れっきとしたサグ家のデムとミロアの間に生まれた娘なのです。小さいころはその風貌のためにいじめられる事もありましたが、マレアはそれにもめげずに明るく育ってきたのでした。いつしか村の若い男たちは多かれ少なかれ美しい彼女に恋心を抱くようになっていました。マレアは彼らの話題に出てくる人物の1人となっていたのです。そして幼いキオたちも彼女に憧れる<男たち>なのでした。

                    

3人の視線を感じたのか、マレアがキオたちを見つけました。「おはよう!みんなそんな所でどうしたの?」明るい笑顔で呼びかけるマレアの元へ3人は我先に駆け寄りました。「おはようマレア!僕たちマレアを手伝いに来たんだ!!」最初に叫んだのはルイルでした。「そうだよ、マレア大変でしょ?後は僕たちに任せてよ!」キオも負けじと叫んでいます。パティンは後ろで少しモジモジしているようでした。マレアは少し驚きながらこう言いました。「ありがとう!でもみんなお家の手伝いはどうしたの?」それに答えたのはキオです。「もう終わっちゃったよ。だからこっちに来たんだ。」「僕んちも畑が小さいからすぐ収穫すんじゃったよ。」ルイルも答えました。パティンも何か言いたげでしたが黙っていました。マレアは少し身をかがめ、彼らに笑顔で問いかけました。「もう終わったの、本当かなぁ?」マレアは1人1人の顔を交互に見つめました。そしてここでパティンがようやく口を開きました。「ぬ、抜け出してきたんじゃないよ…。」「ばか、パティン。」あわててキオが制しましたが、時すでに遅しです。マレアは空を見上げ、少し考えた後で3人に向かって、ゆっくり諭すように話出しました。「キオ、ルイル、パティン…手伝ってくれるのはすごく嬉しいんだけど、でも自分の家のお手伝いもした方がいいんじゃないのかな?」3人はうつむいてしまいました。どう言えばいいのかわからなくなってしまいました。そんな彼らをマレアは優しく見つめていました。「それで、お父さんやお母さんのお手伝いをした後でだったらまた来てもいいよ。ね、だから今は帰ろう?」もう帰るしかないようです。もと来た道を戻ろうとした時です、そこに近づく小さな影がありました。「こらー!あんたたちー!!」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

第一章「初恋とカリスの実」【1】

白森の村は収穫の季節を迎えていました。村全体に広がる果物畑では村人が忙しそうに働いています。カリスの実の香りが村中を包んでいます。ここ白森の村は小国マセノアの南西に位置しています。カリスの実は白森の村の特産物です。手のひらに納まるほどの大きさで、白い皮に包まれた果肉は甘酸っぱい味を醸し出します。マセノア国内のみならずその周辺の国々にも出荷されています。ここ十数年、村の作物はみな豊作でした。カリスの実に限らず、チダの実、クラムの実なども大きな収穫量を上げました。この村に住む9歳の少年、キオ・マシュルも収穫の手伝いをしています。ただし、あまり作業に集中できていないようです。そわそわとあたりを見渡しています。どうやら誰かを探しているようです。キオの目の動きが止まりました。マシュル家の畑の奥、白森の入り口あたりに2つの人影が見えます。ルイル・フィスコとパティン・タラサの2人です。2人ともキオと同じ9歳の少年たちです。ルイルとパティンは家の収穫を抜け出してきていました。そしてキオもまたこの場を抜け出そうとしていました。近くに家族の姿はありません。みなそれぞれの受け持ちの場所で作業をしています。キオは自分を見ている者はいないようだと確信すると、その身をかがめてするするとその場から友人たちのいる所まで駆けていきました。「急げ、キオ!」ルイルが声をかけます。「声が大きいよ、ルイル。」驚いてパティンがルイルの腕をつかんでいます。キオが2人の元にやってきました。「よし、行こう!!」3人は村の中央へ走り出しました。目指すは白森の村で一番の大きな農場です。

                         

そこは村の有力者、ディスマン氏の所有するカリス畑です。広大なその土地は、知らない者が入り込むと必ず迷ってしまいます。しかしキオたち3人はその中に走りこんでいきました。キオが先頭を走っていきます。その後ろから3人の中で1番背の低いルイルが続き、1番背の高いパティンが最後にいます。彼らはこの農場へはもう何度も、いえ実はほぼ毎日のようにやって来ていたのでした。カリスの実が生る木々の間を抜け、農場の中央を突っ切り、その西側にある区画へとたどり着きました。もともとこの大きな農場でディスマン氏の家族だけが作業をしているわけではなく、ディスマン氏に雇われて農作業の手伝いをしている家族がいくつもありました。キオたちはその雇われの家族たちが担当している区画の1つへとやって来たのです。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

序章

かつて、この地で大きな戦が行われました。フェリノア歴137年、カリミア地方の大国フェリノアと、その周辺諸国で結成された11カ国同盟による17年戦争です。当初、戦争を開始した11カ国同盟はその勢いに乗り、戦闘を優位に進めてきました。しかしその勢いもフェリノアの圧倒的な国力の前に寸断され、形成は逆転し、流れを押し返されつつありました。ところが戦争が開始されて7年目の144年、フェリノア国王シャルマ・フェリノが急死するという事態が起こりました。これによりフェリノア軍には大きな動揺が走り、11カ国同盟軍との戦闘は膠着状態を迎える事となりました。そしてフェリノア歴153年、消耗しきった国情を憂いた、11カ国同盟のアレイセリオン国よりフェリノアへ和平交渉が持ちかけられました。翌154年、ついに和平成立となり終戦を迎えたのでした。

                           

                          

その年、夜空を見上げ国政を占っていたヴァヴ婆はそこに一筋の流れ星を見ました。その流星は赤い線を引きながら西から東へと落ちていきました。ヴァヴ婆は直ちに手紙をしたため伝令に渡し、国王に見せられよと命令しました。国王に手渡された手紙にはこう書かれていました。


<わが親愛なる王よ、あなたに神からの贈り物が届けられました。
永きにわたる戦争で疲弊しきったこの国に、富をもたらす吉報です。あなたはこの言葉を覚えておいででしょうか?―地上の巨星落ち、禍々しい災いが民を苦難の道にいざないし時大いなる黄金がこの世を埋め尽くし我らを救いせしめん―巨星とは憎きシャルマ、災いは言わずと知れたこの戦、そして黄金はこの国を潤し余りあるほどの祝福をもたらすでしょう。その兆しはたった今東の地に落ちた紅の星でございます。偉大な王よ、この星をお探しください。他の国に奪われるその前に何としてもその手にお収めください。あなたとあなたの国に幸あらん事を>


手紙を読み終えた国王は急ぎこの星の行方を追わせました。
別の国でもその星を見ている者がいるのは間違いなく、そしてヴァヴ婆の伝える言葉を知っている者も少なくないのでした。遅れをとってはならない、その星をわが手に―。

                       

                           

その6年後、白森の村のマシュル家に新しい命が誕生しました。白森の村は寒い季節を越え、草木の芽が萌え始めていました。シア・マシュルは3度目の大仕事を終えた安堵感に浸りました。ゴル・マシュルは2人目の息子にキオをいう名を贈りました。ルド・マシュルは大騒ぎで家の中を走り回りました。まだ幼いミア・マシュルは弟の誕生を待ちくたびれて静かに寝息を立てていました。すでにあたりは白み始めていました。山すそから覗く朝日がこの赤子を祝っているようでした。近所に住む者たちも、この知らせを聞いてマシュル家に集まってきていました。戦争が終わって6年、まだ決して裕福ではないこの家にもやわらかな喜びが満ち溢れました。そして今、小さな小さなキオ・マシュルは母の枕元で産声に疲れ眠っていました。誰もがこの安らかな寝顔に幸せを感じずにはいられませんでした。涙を流すものがいました。歌を唄うものもいました。表で踊りだすものもいました。勝手に酒を飲み始めるものもいました。みんながキオを白森の村の住人として迎え入れたのでした。その日のうちにキオの誕生は白森の村の人全ての知るところとなりました。でも、彼が後に繰り広げる長く険しい冒険の事を知る人はまだ誰もいませんでした。

                         

             ― 序章 完 ―

| | コメント (0) | トラックバック (0)

トップページ | 2005年11月 »